稲垣吾郎、グラデーションを楽しむ人生 ラジオでの発言から感じた、矛盾すら受け入れる力とは?

 自分にも見えているものと見えていないものがあり、そしてその見えていないときの感性もまた自分自身であること。自覚をしていないだけで、潜在的な想いがあること。それは、明確に白黒をつけるのは難しいがそれも人生の流れの中にあること。そんなグラデーションを描く自分自身を受け入れ、楽しむ様子が、稲垣のミステリアスな魅力の根源のように感じる。

 例えばワインや写真、文学を愛する姿勢など、稲垣のいわゆるパブリックイメージ通りの言動とは逆に、バラエティで思い切ったコントに取り組んだり、ラジオで饒舌な姿を見せたりする、つまりは「意外だ」と思われる言動も、新しい稲垣を見られたという新鮮な喜びになる。「っぽいところ」も「っぽくないところ」も、どちらもあって“稲垣吾郎らしさ”。一見すると矛盾してしまうような部分をスッと受け入れられるところが、彼の持つ不思議な力だ。

 そして、そんな稲垣だからこそ、新作舞台『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』に挑めるのではないかとも思う。今回、稲垣が演じるのは歴史上実在したシャルル=アンリ・サンソン。死刑執行人という現代を生きる私たちからするとショッキングな役柄だ。生まれながらに決められた死刑執行人という職業。だが、サンソンは死刑廃止論者でもあったという。

【稲垣吾郎 主演】舞台「サンソン ールイ16世の首を刎ねた男ー」2021年4月上演

 厳しい運命と自らが抱える大きな矛盾に苦しみながらも希望を求めたサンソンと、多くの人が抱くイメージと自分自身のギャップの間をしなやかに生きてきた稲垣がリンクする。一体、どんな舞台に仕上がるのか、今から楽しみだ。

 激動のフランス革命期と、生活様式がガラリと変わり誰もが混乱している現代。新しい時代を迎え入れていこうという意味では、きっと共通する部分がある。その渦中では、白黒つけられないことも多々ある、そのことを身をもって感じている今。稲垣の見せる、断絶ではなくグラデーションな人生をより意識していきたい。

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