ずっと真夜中でいいのに。は“ポップスの担い手”として加速度的に成長する 2ndアルバム『ぐされ』の前作との違い
そのインターバルにも多くの楽曲がリリースされてきたのでちょっと大雑把な比較となるが、前作『潜潜話』と今作『ぐされ』の最も大きな違いは、複雑な楽曲の構成や転調の多さといったように、これまで主にメロディが担っていた「意外性のための意外性」が、一つの楽曲の中で変化し続けるリズムや、前述したような奥行きのあるサウンドメイキングに深く内在するようになったことだ。それによって、本作では相対的に天性のメロディセンスがより素直により鮮明に浮き上がっている。ずとまよの楽曲としては珍しくAメロ・Bメロからコーラスパートへと直線的に雪崩れ込んでいく1曲目「胸の煙」のダンスチューンとしての有無を言わせぬ完成度や、ACAねが可憐なスキャットまで披露してみせる9曲目「ろんりねす」におけるジャズバラードへの大胆なアプローチは、現時点のずとまよにとっての一つの到達点と言えるだろう。
そう考えると、2020年のEP『朗らかな皮膚とて不服』から「お勉強しといてよ」(アルバム3曲目)、「MILABO」(アルバム8曲目)、「低血ボルト」(アルバム12曲目)という、ずとまよのパブリックサイドとも言えるフレンドリーでアップリフティングな3曲がピックアップされている理由もよくわかる。ソングライティング面においても、詞作面においても、加速度的に深みを増している『ぐされ』において、それらの楽曲はこれまでのファンをちょっと油断させて、さらなる音楽的深淵へと誘引していく重要な役割を果たしている。
先日放送されたNHK『SONGS』で、ずとまよは初めてテレビ番組にその姿を現した。そこでACAねは、「10年後に『ずっと真夜中でいいのに。』という名前がもっと恥ずかしいものになっているといい」という趣旨の発言をしていた。「ポップス=大衆音楽の担い手」としての覚悟に満ちたその言葉に、自分はいたく感動してしまったが、10年後、本当に「恥ずかしい」思いとともに後悔をするのは、同時代に生きていながら現在のずとまよを聴き逃してしまった、見逃してしまった人々の方かもしれない。
■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter
■リリース情報
ずっと真夜中でいいのに。2nd アルバム『ぐされ』
2月10日(水)リリース
<収録曲>
01. 胸の煙
02. 正しくなれない
03. お勉強しといてよ
04. 勘ぐれい
05. はゔぁ
06. 機械油
07. 暗く黒く
08. MILABO
09. ろんりねす
10. 繰り返す収穫
11. 過眠
12. 低血ボルト
13. 奥底に眠るルーツ
Bonus Track
暗く黒く [Twin Piano Live ver.]
<リリース形態>
“強”初回限定DELUXE盤(2CD+GOODS):¥9,000税抜
・本編全曲オフボーカル(インスト)CD付き
・にらちゃん(約15cm)&うにぐりくん(約5cm)特製フィギュア
・MVアート&ACAね一問一答や制作ノート切れ端コピーなどBOOK
・おもちゃ外箱パッケージ(中身は魔導書パッケージ仕様)
・ACAね直筆サイン入りポストカード(ランダム1000枚限定封入)
初回限定LIVE盤(1CD+Blu-ray):¥5,800税抜
・オンラインライブ『NIWA TO NIRA』2020.8.6 完全収録
・ACAね ASMRの旅 滝と焚火編
・魔導書パッケージ仕様
通常盤(1CD)¥3,000税抜