ヨルシカが描く、季節を通して繋がる命の物語 “リスナーの思考”を巻き込み完成する『創作』の壮大な仕掛けとは

 『創作』の収録曲はタイアップ作品の公開に合わせ、昨年2020年に順にオンエアの機会を迎えた。「春泥棒」は3月、「嘘月」は6月、「風を食む」は11月。そして、アルバム『盗作』がリリースされたのは、その間にあたる7月だ。

 春から夏へ。貴方の「いる世界」から「いない世界」へ。そして、『創作』から『盗作』へ。バラバラだった春の曲たちが、『創作』としてひとつに括られることで、新たな像を結んでいく。この『盗作』から『創作』に連なる物語が一体いつから仕組まれていたものなのかを考えると、その仕掛けの緻密さに空恐ろしい気持ちにさえなってくる。

 もちろん、すべては想像の域を出ない。ただ、ヨルシカの仕掛ける音楽が、私たちの想像力を煽る作りになっているのは確かだ。『創作』と『盗作』、『僕は音楽を辞めた』と『エルマ』の対比性。根底で繋がる世界観。その糸口に気づき、真意を手繰り寄せようとしていると、いつの間にかのめり込んで「考えさせられて」いる。

創作

 『創作』が、CDありなしの2種類の仕様で販売されることもそうだ。『創作』のCDを購入するとき、私たちはどちらを買うのかという選択を求められるし、そうなれば考えざるを得なくなる。自分が欲しいものがディスクなのか、あるいはただ『創作』という作品のパッケージなのか。データをダウンロードすれば曲を聴くことはできるのに、なぜ「モノ」を手に入れたいと思うのか、ということを。

 アルバム『盗作』のインタビューで、n-bunaはこうも語っている。

「今回僕が作ったのは『盗作という題の作品』ではないです。『盗作という題の作品に群がる人達』という名前の絵です。否定的な意見も肯定的な意見も、発信した瞬間に全てが取り込まれて『盗作』という一枚の絵になる。俺はそれを安全な位置から見下ろして、好きなだけ鑑賞出来る。こんな面白いことがありますか」(引用:アルバム『盗作』特設サイト

 そして、『創作』の告知の際には、こんなツイートをしている。

「CDのないCDと題したメディアアートがCDショップで売られていたら、大変に皮肉で気持ち良いに違いないと思いました」(引用:ヨルシカ Official Twitter

 n-bunaは私たちに、ただ彼らの音楽を聴くだけの安全な鑑賞者でいることを許さない。何も考えずともレコメンドで受動的に流行の音楽を享受できる時代において、ヨルシカは我々を単なるリスナーとしての立ち位置から引きずり下ろし、能動的に考えることを要求する。

 『創作』がリリースされた時、我々が何を買い、何を買わないのかを彼らはきっと見ている。『創作』という作品には、そこまでが織り込まれているのではないかと思う。CDショップで『創作』を手に取る時、私たちはもう作品の一部になっているのかもしれない。

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。満島エリオ Twitter(@erio0129

ヨルシカ『創作』

■商品情報
ヨルシカ『創作』
2021年1月27日(水)
Type A(CD付き)¥1,900+税
Type B(CDなし)¥1,000+税
配信はこちら

<CD収録内容>
01. 強盗と花束
02. 春泥棒
03. 創作 (Inst)
04. 風を食む
05. 嘘月

■関連リンク
EP『創作』特設サイト
ヨルシカ 公式サイト

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