デジタルシングル「Dear Dear」インタビュー

竹達彩奈×クラムボン ミトに聞く、歌手と音楽作家の理想的な関係性 「10年20年、大切に歌っていける曲を作っていきたい」

 竹達彩奈が、初の配信シングル「Dear Dear」をリリースした。同曲は、クラムボンのミトが制作を担当。年齢を重ねてもずっと歌い続けられるような曲、という竹達のリクエストから完成した「Dear Dear」は、大切な人へ等身大の気持ちを届けるミディアムバラードになった。

竹達彩奈「Dear Dear」視聴動画

 2012年に2ndシングル『♪の国のアリス』で初めて対面し、2016年の3rdアルバム『Lyrical Concerto』収録曲「AWARENESS」以来、約4年ぶりとなる今回のタッグ。両者の出会い〜歌手、音楽作家としてのそれぞれの印象、そして「Dear Dear」に込めた思いとは。歌手と作家の理想的な関係性、それぞれのモノ作りに対する強い気持ちが垣間見えるインタビューとなった。(編集部)【最終ページに読者プレゼント有り】

ミトさんに会ってバンドマンのイメージを覆された(竹達)

ーー竹達さんとミトさんが初めてお会いしたのは、竹達さんの2ndシングル『♪の国のアリス』(2012年9月発売)のときが最初だったそうですね。

竹達彩奈(以下、竹達):『♪の国のアリス』のバンドレコーディングをされていて、そこにご挨拶しに伺ったのが初めましてでした。私、そのときのミトさんの印象をすごく覚えていますよ。

ミト:どんなでしたっけ?

竹達:私の勝手な印象ですけど、バンドマンの方に対してちょっと怖いイメージがあったんです。でも、ミトさんに会ってそのイメージを覆されたというか。本当に腰の低い方で、「こんなハタチそこそこの小娘に丁寧な挨拶をしてくださるなんて、なんて素敵な方なんだ! 逆にすみません!」みたいな気持ちになったのをよく覚えています。

ミト:そのミュージシャンの第一印象って、沖井(礼二)くんが全部悪かったんですかね(笑)。

竹達:(笑)。沖井さんは一見怖そうというか、ちょっと人見知りじゃないですか。ピリピリされているイメージだけど、話してみたら全然そんなことはないんですけど。沖井さんもそうですし、(小林)俊太郎さんもそうですし、私とお仕事してくださる方って、本当に物腰が柔らかくて優しい方が多くて、素敵なご縁に恵まれているなと感じています。

ーーミトさんはそれ以前から、竹達さんのことを声優として存じていたと思います。一緒にお仕事をされたときに、どういう印象を持ちましたか?

ミト:僕もまったく逆のイメージかもしれないですけど、まだハタチになったくらいばかりですけど業界を連戦連勝してきたかのごとくのオーラというか(笑)。

竹達:(笑)。

ミト:後々になってわかることなんですけど、竹達さんもすごく人見知りで。最初からパッと開かれるタイプではない人だったというのと、緊張なさっていたというのもあったと思うんですけど、そのイメージが何年か続きましたね。たぶん、竹達さん自身が心を開いていくまでの熟成期間というのがあったんだろうなと。だから、逆に僕の腰が低かったというのも竹達さんがそうさせたんじゃないかってくらいで、「これは迂闊なことを喋ったら、どこかで事故るんじゃないかな?」と(笑)。

竹達:えーっ、私そんなにピリピリしてました?(笑)

ミト:(笑)。当時は今みたいに、ミュージシャンと声優さんがここまで創作につながっていくこともあまりなかったじゃないですか。違う業界の種族同士なので、いわゆる腹の探り合いというか、どう出てくる人たちなのかっていうのはあったのかも。

竹達:ああ、確かにそれはありましたね。自分がその業界を知らないからこそ、下手に失礼なことをしてはいけないみたいな。特に音楽に関しては、私は本当に素人だったので、とりあえず大人しくしていようってことで、ずっとスーンとしてました(笑)。

ミト:そのスーンとしているところが佇まい的には、こちら側としてはえらいオーラを持ってらっしゃるというか。そういうイメージは、もしかしたらあったかもしれない。

竹達:そうなんですね。でも、あの頃の私は、レコーディング現場で「こんな難しい歌、歌えないよー」って必死でしたから(笑)。

ミト:それはそうですよね。しかも、デビュー曲(2012年4月発売の「Sinfonia! Sinfonia!!!」)が沖井くんの曲だったじゃないですか。あの難易度の高い曲を、音楽が本業ではない方に歌わせようとするわけですから。マジ鬼畜だなと思って(笑)。

竹達:あはははは!(笑)。

ミト:僕がそれこそ豊崎(愛生)さんに最初に作った曲(2010年11月発売の「Dill」)、あれも鬼畜だとは言われたけど、豊崎さんご自身がもともとの音楽嗜好がだいぶマニアックな方だったのもあって。だけど、あの頃の竹達さんは究極のアイドル中のアイドルだと思っていたので。

竹達:えっ、そうなんですか?

ミト:そりゃそうですよ。だって、HTT(放課後ティータイム)にいる人間たちをアイドルじゃないとか、ありえないですよ。

竹達:たぶん本人たちはそう思ってないですよ(笑)。

ミト:いやいやいや。竹達さんの仕事を受ける前から、僕はさいたまスーパーアリーナでのライブも、そこで楽器を弾いているのも観ているし。正直な話、それもあって音楽的スペックが高い人たちになっちゃっていたんですよね。あとになって、あれも究極の叩き上げだったという話も聞きますが、結果的に求められるものもすごかったと思うんです。

竹達:確かに、あれから数年間はギターを弾けるってイメージを持たれていましたし(笑)。

ミト:だから、あれがあったというのもデカいかなと思っていて。でも、僕は僕でタレントさんが歌える範囲というか、「これぐらい丁寧なものが作れたら」と思ってやっていたので、そこを飛び越えた沖井くんはすごいなと思いましたよ。そのほかにも、いろんな人が楽曲提供していましたものね。いしわたり淳治くんとか末光篤くんとか、それこそ筒美京平先生もそうですし。それを飄々と飛び越えていくなという印象がありました。実際は飄々とではなかったでしょうけど。

竹達:そうですね。だって、本来は「下はここまで、上はここまで、これくらいの間で曲を作りましょう」っていうキーチェックを事前にするじゃないですか。なのに、沖井さんからはそれを飛び越えたものが来たわけですから(笑)。

ミト:「これぐらいはいけるだろう」みたいな?

竹達:デビューが決まって、最初にレコーディングした曲が「CANDY LOVE」と「Strawberry☆Kiss」だったんですけど、そのレコーディング前に事前に俊太郎さんのスタジオでキーチェックをしたんですよ。それが沖井さんとかほかの作家さんにも当然伝わっているものだと思うじゃないですか。

ミト:だけど、違うデモをもらったんじゃないかなぐらいのものが届いたと(笑)。それはたぶん、沖井くん自身も作家業自体をまだそこまでやっていなかったのもあるだろうし、探り探りだったのかな。例えば音楽業界だったら、そういうのを飛び越えてもどうにかなるだろうとか、そういうのはありますけど、ひと業界飛び越えると事故につながるじゃないですか。そういう事故を事故と認識していないのも、私たちミュージシャンのまだ歩み寄れていない時代だからこそというか。2010年から2015〜6年ぐらいまでって本当に特殊で、声優業界とミュージシャン周りが組んず解れつというか、すごく混沌とした時代だった気がしますね。

作家としてはクライアントからいただいたメニューに従う(ミト)

ーーその出会いを経て、竹達さんの3rdアルバム『Lyrical Concerto』(2016年11月発売)に収録された「AWARENESS」では、ミトさんが作曲・編曲という形で携わりました。

ミト:あのときは竹達さんやスタッフの方から、直接メニューが届いて。いわゆる戦隊モノじゃないけど、メカものアニメのオープニングぐらいのアグレッシブなものがあるとうれしい、みたいな感じだったと思います。

竹達:私が確か、「1曲の中でRPGを表現してください」って伝えたんだと思います。それこそ「戦いのシーンや情景が浮かぶような、情熱的な曲がいいです」みたいなことを、当時のプロデューサーにお願いして。

ミト:で、何が発展してそうなったかはわからないですけど、ロボット的なというか、いわゆるちょっと地球ではない世界がテーマになって。僕は作家ではありますけど、さすがにリリックでシナリオは作れないと思って松井(洋平)くんに頼んだら、松井くんが2日目ぐらいにA4用紙6枚ぐらいにシナリオを書いて、いきなり私に送ってきたんですよ(笑)。

竹達:あ、それ読みました!(笑) 設定がつらつらと書かれていて、すごかったです。

ミト:やる気がすごすぎたので、あとはこれをどうにかなぞらえてやればっていう感じでした。基本的に僕は作家としては、クライアントさんからいただいたメニューに従ってやるつもりなので、そうきたらしっかり返さなきゃいけない。だから、「これ、歌うの大丈夫なのかな?」と思いながらも、結果的にカロリーの高い曲に仕上がりました。

竹達:確かにレコーディングは大変でした。でも、ライブで歌うとめちゃめちゃカッコよくて。ただ、バンドさんたちはいつも苦労されています(笑)。

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