秦 基博『HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2020 ‐コペルニクス‐』見どころ “配信に特化した演出”でアルバムはどう進化する?

 11月19日、秦 基博のツアー『HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2020 ‐コペルニクス‐』が無観客ライブという形で配信される。ここではこのライブで観ておいた方がいいポイントをいくつか記していく。

 まず『コペルニクス』は秦が昨年12月11日に発表した6枚目のオリジナルアルバムである。前作『青の光景』から4年の歳月をかけた『コペルニクス』は、秦にとって細部までこだわり抜いた野心作と呼べる一枚だった。全12曲中10曲で、あいみょんや土岐麻子などを手掛ける、今もっとも売れっ子と言っても過言ではないトオミヨウを共同サウンドプロデューサーに起用。アコースティックな温もりとクールでデジタルな音色の共存という、最新のサウンドバランスを実現した。

 「作品はリスナーに届けて初めて完結する」という想いを持つ秦は、アルバムリリース後、さっそくツアーの準備に取りかかった。アルバムの世界観を表現するため招いたメンバーは、トオミ(Key)を筆頭に、鈴木正人(Ba)、朝倉真司(Dr)、室屋光一郎(Vn)率いるストリングスカルテットという、秦と共演経験がある強者たち。そして気鋭のシンガーソングライターである若手のシンリズム(ギター、キーボード、コーラスなど担当)、さらにアルバムのアートディレクションや収録シングル「Raspberry Lover」のMV監督も手がけた林響太郎に映像制作を依頼するなど、“ライブ版『コペルニクス』”の内容を着々と形にしていく。実際ツアー初日の会場となる大宮ソニックシティではセットも組んで最終リハーサル(ゲネプロ)も行うなど、あとは本番を待つばかりというところまで舞台は仕上がっていた。

秦 基博 - Raspberry Lover Music Video

 しかし、ご存知のように新型コロナウイルス感染拡大ですべての計画は吹き飛んでしまう。3月4日開幕のツアーはスタート直前でストップがかかり、その後何度か振替公演を試みたものの状況は好転せず。結果、すでにでき上がっているセットや演出、アレンジやアンサンブルはそのままに、ツアーは塩漬け状態に置かれることになってしまった。

 2020年上半期の中心となるはずだった全国ツアーが1本も開催できないまま保留となるなか、秦は気持ちを立て直し、新たな活動に集中した。自らの音楽の原点と言える弾き語りによるセルフカバーを集めた人気アルバム『evergreen』の続編の制作を開始。そして8月27日には初の配信ライブとして『Hata Motohiro Live at F.A.D YOKOHAMA 2020』を行った。

 これは秦ひとりの弾き語りスタイルで、自身がアマチュア時代に出演していた“原点”とも言えるライブハウス=F.A.D YOKOHAMAから演奏を届けるという内容だったが、配信ライブに対する秦の姿勢が感じられるものでもあった。というのも、秦はこのライブを「ライブハウスで音楽を聴いている雰囲気を感じてもらえるものにしたい」と定め、配信ならではのギミックや演出に一切手を付けなかったのである。対面ライブに肉薄する映像体験として配信された『Live at F.A.D YOKOHAMA 2020』はストイックな空気に満ち、秦の表現の本質である音楽のチカラをじっくりと堪能できるものとなった。

 そして8月10日、現状での開催は困難という判断に基づき、『コペルニクス』ツアー全公演の中止が正式に決定した。と同時に、配信ライブという形態でツアーを表現する旨も発表された。今回『HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2020 ‐コペルニクス‐』として配信される映像は、これに当たるものである。

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