ビリー・アイリッシュが見せた、世界の惨状と明るい未来への可能性 幻想と現実を行き来した初オンラインライブ

 ショウも佳境に入ったころ、それまで幻想的だった演出は次第に現実とリンクしてゆく。「all the good girls go to hell」は、MVの時点で環境問題を示唆していた曲だが、今回のライブではそれがより直接的なものとなった。背後を崩れ落ちる氷山、煙突から排出されるガス、海に漏れ出す石油、ひび割れた大地、ごみの塊などの映像がビリーたちを取り囲み、最後は画面中央に“NO MUSIC ON A DEAD PLANET”の文字が映し出された。端的で力強いメッセージを背負いながら、ビリーは「(米国大統領選に)投票して。お願いだから。あと10日だよ。特に若い人たち。何かしなきゃ。世界も人も死んでいってるし、(ドナルド・)トランプは最悪」と訴えた。

 彼女は楽しいライブのすぐそばに広がっている惨状から目を背けることを許さない。しかし、今年リリースされた新曲「my future」のパフォーマンスでは、世界は一転して豊かな緑に囲まれる。みんながアクションを起こせば、未来はこんなにも明るいと言わんばかりだ。今までの人生より、この先の方がはるかに長いはずの彼女たちにとって、現状を直視するのと同じくらい未来に恋することも必要なのである。最後にクルーとエキストラに感謝を述べてから再び「VOTE!」と声を上げて去っていったビリー・アイリッシュは、この局面における自身の役目を全うしたのだろう。次は私たちが、彼女がひとつひとつの言動に付与した意図とその意味について考える番だ。

<Setlist>
bury a friend
you should see me in a crown
my strange addiction
ocean eyes
xanny
i love you
ilomilo
No Time To Die
when the party’s over
all the good girls go to hell
everything I wanted
my future
bad guy

■清家咲乃
1996年生まれ。青山学院卒。BURRN!編集部を経て現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。ヘヴィミュージックを中心に、ルーツロックからヒップホップまで幅広く好む。『エクストリーム・メタル ディスク・ガイド』などに寄稿。

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