夜韻-Yoin-で活動中、あれくん「好きにさせた癖に」バイラルチャート急上昇 生々しい歌詞と歌声のさりげなさにある美学

 秋の夜長に再び考える。あれくんの魅力。まずはその歌声にある。“癒し系”と称されるその歌声は、ひとことで言うならボーダーレス。どこか中性的で、無色透明だが存在感がある。温もりはあるが、心地よい常温。湿度もあるがウェットではない。シルクのように上質でサラリとした耳触りもいい。声を張り上げることはないが、ウィスパーという手法で逃げない、彼なりのこだわりも感じられる。そんな中で特筆すべきは、聴き手との距離がとても近いこと。レコーディング時に意識してミックスしているのかもしれないが、いつの間にか隣に座っているような近さがある。しかも、いきなりじゃなく、さり気なく。このさり気なさは、彼の作る楽曲にも言えることだと思うが、ここが、あれくんの美学なのかなと思う。

あれくん「好きにさせた癖に」Official Music Video

 「好きにさせた癖に」は、切ないラブバラード。女性視点で綴られた歌詞は、恋の終わりを予感しながら、受け入れられない女性の最後のもがきを綴った内容。1人真夜中に泣きながら終わる恋に思いを馳せている姿から、歌詞の途中に挟み込まれる男性の台詞まで、生々しくかさぶたをひっぺがされるような痛さがある。聴き手の心をグリグリとえぐりながら、それでも優しさが残るこの曲。この余韻こそ、あれくんの歌声が持つ強さだろう。しかしながら歌声だけじゃなく、ギターのストロークも緩急あって素晴らしいんですよね。なんでも高校生時代は、ギター小僧のメタラーだったそうですから。

 〈あぁ馬鹿馬鹿しい 灯を喰らう夜に〉というワンフレーズに、あれくん自身も、夜長が好きなタイプなのかなと思ったりしました。

■伊藤亜希
ライター。編集。アーティストサイトの企画・制作。喜んだり、落ち込んだり、切なくなったり、お酒を飲んだりしてると、勝手に脳内BGMが流れ出す幸せな日々。旦那と小さなイタリアンバル(新中野駅から徒歩2分)始めました。
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