DJ DARUMA、WEGO店内BGMセレクトに込めた“クラブカルチャーへの想い” プレイリスターとして“グルーブに浸る面白さ”追求
DJ DARUMAが9月16日からアパレルショップのWEGOと提携して「PLAYLISTER」と題し店内BGMを担当する。ハウス/テックハウスを軸に『EDGE HOUSE』のレジデントを務める彼が、クラブDJという枠を越えて選曲するのは初めて。すでに自身がディレクションするブランド「FULL-BK」においてWEGOとのコラボを果たしているが、音楽でも合流する運びとなった。今回の企画はどのように準備されていったのだろうか。プレイリストのコンセプトや実際の選曲、社会、今後のクラブカルチャーへの展望を含めて、DJ DARUMAに話を聞いた。(小池直也)
WEGOとのコラボのきっかけ
ーー「PLAYLISTER」という企画が動き出した経緯について教えてください。
DJ DARUMA(以下、DARUMA):たまたま僕がWEGOのスタッフさんチームと、「これから数年で世界のフェスシーンやダンスミュージックシーンは、EDMのような縦ノリからテクノやハウスを軸とした横ノリになります」という話をしていたんです。そこから店内音楽の話になって「ちょうどBGMの雰囲気を変えたいと思っていた」と。それでご一緒させていただくことになりました。WEGOさんは若年層をターゲットにしていることもあり、今までの店内音楽はEDM中心だったそうです。でもスタッフさん側からも「EDMの流行が落ち着いてきたので店内BGMを変えたい」という声が挙がっていたそうなんですね。
選曲家/プレイリスターという概念はこれから伸びてくると思いますし、僕自身も興味がありました。「シチュエーションに合った音楽を選曲する」という発想が仕事として成り立てばいいな、と。その最初の取り組みがWEGOさんとのコラボだったんです。
ーープレイリスターには確かにビジネスとしての可能性がありそうですが、著作権に関してはどのようにクリアしているのでしょうか。
DARUMA:USENに専用チャンネルを設けることで、権利者に楽曲使用料がしっかり支払われるシステムになっています。僕も権利関係をどうクリアしているのかが不思議だったんですよ。最近Fantastic Plastic Machineの田中知之さんが、猿田彦珈琲さんの店内BGMを担当されていて、その田中さんに質問して仕組みを教えてもらいました。WEGOさんも以前は同じシステムで別のリスターさんが担当されていたようです。
ーーこの仕組みは初めて知りました。単にサブスクリプションサービスで作ったプレイリストを流すのではないのですね。
DARUMA:サブスクをそのまま店内音楽にすると、権利関係をクリアできないんですよ。しかし、各種サブスクリプションで作ったプレイリストを店内で紹介して、お客さんがスマホでも楽しめるようにはしたいと考えています。実際、「この曲は何ですか?」という問い合わせも多いみたいなので。僕は仕事柄、Shazam(音楽認識アプリ)する機会が多いので、世の中で全員使ってるくらいに思ってましたが「ほとんどの人はShazamのような検索アプリは使っていない」という意見をいただいて(笑)。それならプレイリストをダウンロードすれば店内放送とリンクしますよ、という方法がいいなと考えました。
プレイリスターとは
ーー「プレイリスター」という言葉はストリーミングサービス以降、注目されました。ドレイクが『More Life』をアルバムではなく、プレイリストと銘打って発表していたことも記憶に新しいと思います。しかし、ヒップホップでいう「ミックステープ」とはどう違うのでしょうか。
DARUMA:僕の考えるミックステープは、ビートジャック(他人のビートでラップする)など含めて、クイックに作った作品たちをラッパーがストリートへの宣伝として出すもの、という理解です。DJする/音楽を選曲できる、という力をクラブではない場所で使うのがプレイリスターなのかもしれません。やはり、ある程度の量の音楽を聴いてきた人でないと選曲は難しいのかなと思います。
僕にとっては中学校の時がDJのスタートなんです。「なんかいい感じの曲いっぱい入れて」と友達に言われて、カセットテープにインデックスを書いて渡すことをしていたら、「あいつ音楽に詳しいから選んでくれるぜ」みたいな。これも立派な選曲家/プレイリスターだと感じます。今やっていることは、それが少し手軽になった感じです。
プレイリスターに100万のフォロワーがいれば、超単純に考えると100万再生が保証されます。なので有名なプレイリストに曲を入れてほしいと願っているアーティストはすでにたくさんいると思いますよ。だから選曲家やプレイリスターが仕事として成立してくる時代なのかなと。コロナの状況ではしばらくは現場でDJをするのは難しいですし、DJのスキルとセンスを使うプレイリスターには可能性を感じています。
ーープレイリスターはDJの活動の一環として捉えている感じでしょうか。
DARUMA:DJは基本的に、オーディエンスのグルーブを感じて楽曲を紡いでいくものです。だから、Aという曲の次にBを繋げて、そこからCに行くかDに行くかは、その時々のフィーリングによって変わる。一方、プレイリストはその場で選曲するわけではないので少し違う。もうちょっと考えて「Aの曲の終わりはこの感じだから、次のBはこうだな」と少し理屈っぽく作っていくのがプレイリスター、という風に整理しています。DJ的な感覚を使う”選曲家”という感じでしょうか。
今回のプレイリストの狙い
ーー今回のプレイリストはどのようなコンセプトで作られたのでしょう。
DARUMA:大きなテーマとしては、4つ打ちのディスコやテクノ、ハウスを軸にしようと考えました。自分は2019年から『EDGE HOUSE』を始めたのですが、レディー・ガガとアリアナ・グランデの「Rain On Me」(2020年)を聴いた時に、いよいよメインストリームにグルービーな4つ打ちが戻ってきたと感じたんです。「Rain On Me」のトラックは、Cassiusというアーティストの「Feeling For You」という曲のまんまなんですよ。
Cassiusは1999年に1stアルバムを出して“フレンチハウス”と呼ばれる音楽性で認知されていました。「Feeling For You」自体も1979年に流行ったソウルやディスコ的なサウンドをサンプリングしています。そこからさらに20年経って、ハウスとかテクノのグルーブを再びティーンを含めた人々が受け入れているんです。
しかもポイントとして面白いのは、現在レディー・ガガを聴いている方にとって、その曲がハウスかどうかは全く関係ないということで。その流れでWEGOさんがターゲットにしている若年層に「ハウスやテクノが今トレンドで、カッコいいから聴いてください!」ではなくて、ナチュラルに耳にしてほしいと考えました。
ーー選曲を見ると20年ぐらい前のものと、その周辺で選んでいる印象がありました。
DARUMA:音質的に問題なければ、20年前と今のものが同列でかかっても平気だと思うんです。調べてみたら「これは20年前の曲なんだ」「そういう繋がりもあるのか」という瞬間が生まれたら面白いですし。本当はそこで知ったアーティストから、さらに掘ってくれる人が1000人に1人いてくれたら嬉しいですが(笑)。
プレイリスターという業務が成立する状況は、裏を返すと人々が音楽を調べる行為すらしなくなった、ということです。もちろんする人がいないわけではありませんが、生活のなかで「いい感じの曲を聴ければいいや」「別にアーティストが誰であろうが、ジャンルがなんであろうが関係ない」という人が大多数になっている。Spotifyさんと半年くらい前にミーティングした時に聞いたのは、よく検索される単語がシンプルに「洋楽」だけになっていたり、他も「洋楽 最新」、「洋楽 流行」というようなワード感らしくて。そのような状況なので、パッと聴いて「いい感じじゃん、何かよくわかんないけど」ということが重要だと感じています。
ーー全体の流れのイメージは?
DARUMA:全体の流れよりも曲の前後感を気にしました。「次の曲の頭にこれが来たら、どういう入りか」と1曲ずつチェックするんです。頭を聴いて終わり方を聴く、で次の曲の頭を聴いて終わった瞬間から少し余白があって、また次が始まる。そこで気持ち悪くないかだけを意識して繋げた感じです。どこがスタートかは入店した人のタイミングによって違うので、プレイリスト全体の流れよりも、店内BGMとしてどうかを重視しました。
また、1時間くらいの尺で選曲すると、店員の方々が「またこの曲か」となると思うので、たっぷり6時間分を選曲しました。これなら同じ曲が1日2回かかるか、かからないかくらいですよね。曲調はハードなテクノとかトランシーなものではなく、何となくいい感じに聴けるボーカルものやグルービーなものを多めにして、少しポップに寄せました。