マカロニえんぴつの楽曲にある味わい深さ はっとりが綴る歌詞の真髄を3つのポイントから考察
本コラムでは、絶賛上り調子のバンド、マカロニえんぴつ・はっとり(Vo)が綴る歌詞の魅力に焦点をあてる。なにそのバンド名、というあなたに、まずご紹介したいのはこの歌詞。
〈あの娘に勧めたいけどバンド名がな ダサすぎ いや、レッド・ホット・チリペッパーズという親玉の存在を忘れるな(大丈夫!)〉(「トリコになれ」)
なんて自虐的な歌詞も書いてしまうのがはっとりであるということを、最初にお知らせしておこう。そんな、おちゃめなイメージもあるバンドなのだが、歌詞が何とも味わい深いのだ、というのが今回の肝である。まずは彼らの原点・土台について、歌詞を通して触れていこう。
はっとりとあこがれ(「あこがれ」1stミニアルバム『アルデンテ』収録)
「あこがれ」ははっとりの土台ともいうべき曲だ。はっとりの名前は、本名ではない。はっとりが愛し、憧れるロックスター、ユニコーンのアルバム『服部』に由来している。本曲では題名通り、「あこがれ」への思いを歌っている。〈才能ないとか やめちまえとか言われても 憧れはやめられないから〉と、夢を追いながらもくすぶっている姿が描かれる。本曲の歌詞のすごいところは、〈どんなに頑張ったって あなたにはなれないけど〉〈追いかけてるんじゃない 探してるんだ〉という部分だと思う。憧れはやめられないけれど、真似事ではなく、自分らしさを探していこうという歌詞に、勇気付けられる人も多いはずだ。〈頑張ってあなたよりもすごくなろう いつか誰かのあこがれになろう〉という歌詞を、マカロニえんぴつはすでに実現しているし、これからより多くの人のあこがれになっていくことだろう。
マカロッカーへの愛(「ハートロッカー」2ndミニアルバム『エイチビー』収録)
マカロニえんぴつを構成する大切な要素の二つ目は、ファン(マカロッカー)への愛である。〈死んだように生きていたい僕の やっぱりどうしようもないこんな歌が あなたの逃げ場になるなら歌うよ〉という歌詞の通り、マカロニえんぴつはライブで必ずと言っていいほど、「僕らの音楽は、あなたたちの逃げ場所です」というMCをしている。はっとりが先日DISH//に楽曲提供した「僕らが強く。」でも、〈逃げ場所を守るためだったら僕も行く、僕らも戦うよ〉と歌っており、彼らの音楽に対する変わらぬ姿勢の一つだと言える。
ここまで「あこがれを抱き、マカロッカーを大切にする」という、彼らの原点・土台となる歌詞を紹介した。ここからは、はっとりの歌詞の真髄に迫っていこうと思う。
人生と忘却はセット
はっとりの書く歌詞には「忘れる」というワードが多く出てくる。最新曲「溶けない」では〈急ぎすぎた日々の中で見つけた優しさ 忘れちゃうのかな そっと忘れちゃうんだよね、ぜんぶ〉、「愛の手」では〈塞がれた昨日も ねぇ、このまま忘れて生きる〉、「春の嵐」では〈たしかなものをはきっと一つも無いのにな どうせ忘れるくせにな〉、「恋人ごっこ」では〈忘れていいのはいつからで 忘れたいのはいつまでだ?〉と、新旧様々な楽曲に登場する。はっとりの歌詞の根底には、「人生と忘却はセットである」という刹那があるように感じる。力強い歌声の裏にある刹那は、はっとりの歌詞の魅力の一つだ。忘れることの良さや悲しさについて、はっとりはずっと考え続けているのかもしれない。