湯木慧の次世代シーンを占う“目利き力” 1stEP『スモーク』を気鋭クリエイターとのタッグから紐解く

 不安定な時代、羅針盤なき時代だからこそ聴きたい音楽作品。それが、大分県出身のシンガーソングライター・湯木慧が8月19日にリリースしたメジャー1stEP『スモーク』だ。かつて彼女が、「作品を創作することは人生そのもの」と語っていたことが忘れられない。湯木慧は、表現することで“生きる”ことに向き合い、 表現することで“生きる”ための感情を揺さぶる表現者なのだ。

「スモーク」 湯木慧 MV

 もともと、アート表現として「個展ライブ」を行ってきた経緯を持つ湯木慧は、本作のリリースにあたって、9月12日に神奈川のライブハウス・1000 CLUBでワンマンライブ『選択』を開催する。

湯木慧 単独個展『HAKOBUne-2019-』 〇〇〇〇

 本公演は防護服付きでチケットが発売されており、観客数は新型コロナウイルス感染拡大防止ガイドラインに準拠し、200人程度に制限される。湯木慧による「皆様に“防護服”を用意します。これは心の防護服です。そしてそれは音楽でもあります」とのコメントが興味深い。図らずもソーシャルディスタンス=日常生活における距離感に制限が必要となった、まるでSF映画のようなデストピアを感じるコンセプチュアルなステージ。

 ポップミュージックとは時代を映す鏡だ。アーティスト、表現者とは時代にいち早く反応する炭鉱のカナリアだ。何が正しいのか、答えが見つけづらい時代。現在のような特異な状況だからこそ、一期一会となるライブ表現へと踏み込んだ湯木慧による攻めの姿勢を評価したい。

 こうした状況の中リリースされる、湯木慧の2020年を記録したメジャー1stEP『スモーク』は“モノが燃えて灰になるまでの間で生み出される煙のように”という“境界線の曖昧さ”を意味している。作詞作曲は湯木慧だが、加えてアレンジを彩る気鋭アーティスト/トラックメイカーを起用した嗅覚の鋭さは、次世代シーンを占う彼女の目利き力がうかがえる。1曲ずつ、絶妙なるコラボレーションから誕生した作品を解説していこう。

1.「Answer」 作詞作曲:湯木慧、編曲:NAOtheLAIZA

「Answer」 湯木慧 Short MV

 注目は、TWICEなどへの楽曲提供など幅広く活躍する音楽プロデューサー、NAOtheLAIZAが編曲を担当していることだ。心臓の鼓動のような四つ打ちビートに、決意表明のような言葉がグサリと突き刺さる。メロディはスッと入ってくるのだが、深く考えさせられるテーマを歌ったキラーチューンの誕生である。

2.「雑踏」 作詞作曲:湯木慧、編曲:西川ノブユキ (アノアタリ)

「雑踏」 湯木慧 Short MV

 これまで、数多くの湯木慧作品のアレンジを担当してきた西川ノブユキが編曲に参加。サンプリング風のブレスがパーカッシブな機能性を持ち、コーラスが多重に鳴り響く。途中、救急車などのサイレンがリアリティを浮かび上がらせる。人間ってなんなんだろう。改めて問いただされる秀逸な自問自答ソングだ。

3.「追憶」 作詞作曲:湯木慧、編曲:出羽良彰

「追憶」 湯木慧 Short MV

 amazarashiなどのアレンジをはじめ、数多くの劇伴制作を手掛ける出羽良彰との初コラボ作品が実現。物語をストーリーテリングするかのような、おとぎ話を奏でるかのような世界観。二重らせんのDNAモデルのようにループ感ある、たゆたうようなサウンドメイクに溶け合う歌声に心奪われた。

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