佐藤千亜妃が露わにした“静から動”への豊かな表情 自然体で挑んだ『Streaming live “NIGHT PLANET”』レポート

 心地よく揺れるループ感覚のトラックが気持ちいい「Spangle」から、アップライトベースとブラシを使った繊細なドラミングが聴けるアコースティックテイストの「lak」へ。椅子にちょこんと腰かけゆったり歌っているが、歌っている言葉は〈Please kill me now, baby〉だ。美しい、怖い、はかない、どす黒い。佐藤千亜妃の歌の中には様々な未可分の感情があり、聴くたびに表情を変えてゆく。

 傷ついてもいい、あなたがくれる傷ならば。せつなさをたっぷりとたたえた大らかなロックバラード「空から落ちる星のように」には、スタンダードな美メロと幸せなバイブスがある。キーボードの宗本が思わず立ち上がって弾いてしまう気持ちがわかる、とてもエモーショナルな1曲だが、「大キライ」はたぶんその上を行く。つらい別れのそのあとに、好きだった気持ちを忘れるために、キライキライと言い続けなければ自分が壊れてしまう女の子。静から動へ、感情曲線の高まりに完璧に寄り添う劇的な演奏と歌、至近距離で迫るカメラ、それはまるで3分半の短編ドラマ。

「今いろんなことが大変な世の中だと思うんですけど、こうして集まってチーム一丸となって、今日のような場を作れたことが嬉しいし、感謝してます。画面の向こうで見てくれているみんなも、このチームの一員だと思っています。また世界が落ち着いたら、生のライブでまた会える日を夢見て、最後の曲を届けて終わりたいと思います」

 ラストチューンは「キスをする」。あたたかい響きのスローバラードに乗せ、現世を超え来世までも続くだろう愛の形を描く、壮大だがとても親密なラブソング。僕らはいつか死んでしまうけれどいつかどこかで会えると信じているーー。アルバム『PLANET』の中でも特に慈愛に満ちたバラードは、この特別な夜のラストを飾るにふさわしい名演になった。

「こんばんは。まだ見てるかな? シークレットアンコールということで、弾き語りで何曲かやりたいと思います。やってほしいというリクエストがあった曲の中からお届けしたいと思います」

 これで終わりかと思ったら、まさかの嬉しいアンコール。あいつをどうやって殺してやろうか、と、たった一人でアコースティックギターを爪弾きながら歌い出す。ああ、「春と修羅」だ。佐藤千亜妃がきのこ帝国のボーカルだった頃、初期からの代表曲だ。〈なんかぜんぶめんどくせえ〉と、ぶっきらぼうに優しく歌う声が、長い時間と記憶を一気に巻き戻す。「この季節にぴったりの曲を」と言って歌った「夏の夜の街」も、きのこ帝国の代表曲だ。終わってしまって二度と戻らないもの、でも心の奥でくすぶり続けるかすかな思い。サウンドや歌はずいぶんソフィスティケイトされたが、佐藤千亜妃の世界で生きている主人公は、昔も今も変わらずに残酷なほどに純粋で切実だ。

 カメラにピースサインを決め、ステージから降りる笑顔が清々しい。アルバム『PLANET』で試みたアーバンなR&Bやチルアウトとロックとの融合は、ライブという場ではよりフィジカルで心地よいグルーブとして楽しめることもわかった。これは2020年8月14日にリリースされた、“NIGHT PLANET”という一つの作品と言っていい。佐藤千亜妃のこれからの動きがさらに楽しみになる、このライブを見られてよかった。

■セットリスト
佐藤千亜妃『Streaming live "NIGHT PLANET”」
2020年8月14日(金)
01.PLANET
02.Summer Gate
03.Lovin' You
04.You Make Me happy
05.リナリア
06.橙ラプソディー
07.転がるビー玉
08.面
09.Spangle
10.Lak
11.空から落ちる星のように
12.大キライ
13.キスをする
-シークレットアンコール(弾き語り)-
En1.春と修羅
En2.夏の夜の街

佐藤千亜妃 OFFICIAL SITE

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