GReeeeN「星影のエール」は、コアを新たに封じ込めた作品に CGアニメーションMVのメッセージを考察
本楽曲は5月11日から配信されており、YouTubeにはすでにリリックビデオが1本あがっている。
担当者に確認してみたところ、今回のMVの企画・制作はリリックビデオ以前からスタートしており、ドラマで十分に素敵な映像と音楽が流れているので、それとは違うアニメーションを用いたファンタジーの世界を描くことで、楽曲の新たに魅力を伝えようと考えたからだという。
前置きが長くなったが、今回公開された3DCGのMVを見てみよう。今回GReeeeNメンバーは、設定の細かいディテールまで意見を出し合い、かなり脚本は時間をかけて詰めたのだが、「物語の解釈は見た人に自由に考えてもらう余白も作りたかった」ということもあり、このMVは謎となっている部分が非常に多いように思える。
長くなるが、このMVの一連の流れを書いていこう。
年季の入ったロボットと生後間もない赤ちゃんがロケットに同乗しているシーンから、両足で歩けるようになった赤ちゃんとそれに慌てるロボットのシーンへと移り、成長してショートカットになった女の子は絵本の中の海辺と青空に憧る。だが生まれたときから続く宇宙空間のなかではそれは叶わず、思わずロボットに八つ当たりをしてしまう。
そこから場面が変わり、男女が海辺で大きな流星群を眺め、ショートカットの女性が星に願いを、メガネをかけた男性が横からそれを見て頬を赤らめるシーンになる。また場面が移り、ベッドに横たわって死を迎えたように見えるシーンから、眼前に迫った地球らしき星を前にして、ロボットはスイッチを押し、2人が大切していた星型の石が光りだすが、途中でロボットは力尽きてしまう。
ラストシーンでは、無事に地上に着いたロケットのなかで、女性はふたたび赤ちゃんに戻り、ロボットの指を掴んで離さないままでエンディングを迎える。
初見で見たときに、このMVはNHKの「みんなのうた」で流れるような幼稚園児から小学生向けのビデオとしてオンエアされても面白いと思えた。宇宙、ロボット、赤ちゃん、宇宙船、謎の光、大人から子供への転生、子供が好きそうな事物や現象が詰め込まれている。また、やわらかいタッチで人懐っこい人物造形を、短い時間とはいえ、非常になめらかな3DCGで描いてみせるのは、このスタッフ陣ならではの素晴らしさであり、子供の目で見ても優しい絵になっているように見えた。
同時に、このMVはそういった子供をもつ親にも向けられているようにみえる。この曲の歌詞と3分20秒の間で描かれたアニメシーンは、変わりゆく相手(女性)と変わることのできない自分(ロボット)、延々と続いていく宇宙空間や船内生活と目指すべき星(おそらく地球)という様々なギャップが描かれており、人の生から死を迎える中で、自分が愛する人にどのような「エール(≒支え)」ができるのか? 自分が他者にどのように寄り添うことができるのか? という問いを投げかけるものであるからだ。
おそらく、このロボットは途中で登場する男性なのだろうと考えられる。その証拠となるのが、1番目のサビを迎える55秒のシーンで、ロボットは自然な動きで目と目の間に指をあてがっているのだが、2番目のサビである1分45秒ごろにはメガネをかけた男性が、Cメロを迎えている2分20秒のときにはふたたびロボットが、合計3回にわたって同様の動きをしている。これはメガネのブリッジを動かし、目とメガネをあわせる動きにほかならず、ロボットは眼鏡の男性であることが意図されているのだ。
まともに読み込んでいくと、ショートカットの女性が赤ちゃんにあたるのは当然そうなのだが、なぜ宇宙船のなかにいて地球から離れているのか(あるいは向かっているのか)、なぜ男性がロボットになっているのか、星型の石がなぜ光っているのか…などの謎が出てくるのだが、こういった箇所は考察を誘発するための「余白」であり、この画面のなかでは詳しく描かれていないのだろう。
GReeeeNは今回のMVを通して、この曲が持ちうる応援歌(エール)としての間口が、このMVと相まって非常に大きいことを示したように思える。言ってしまえば、家族の誰しもが互いを想い合えるような歌であり、家族だけではなく友人をも含めた、自身の愛するひとを大事に想い合うスモールサークルなラブソングに仕上がっているのだ。
自身の身近な人を大事に想い合うスモールサークルなラブソング、これはGReeeeNにとっては初めて手掛けるテーマではないのは、彼らのヘビーリスナーならよく御存知のはずだ。
彼らの代表曲ともいえよう「キセキ」のMVを見てみよう。このMVは3世代に渡る家族それぞれに主眼を置いたMVで、途中で流れる流星群を、家族それぞれがバラバラの場所で見ているという構図になっており、その瞬間「流星群を見ている」ということで家族が繋がっているというキセキを描いてもいる。これはもはやハッキリしていると思うのだが、「キセキ」に込められたメッセージを、この2020年に再度「星影のエール」としてリビルドしているかのようだ。
実のところ、GReeeeNがこの曲に入れ込む熱量は、それにとどまらない。彼らのYouTubeチャンネルをここで確認してみよう。先にふれたリリックビデオにとどまらず、コロナ禍において演奏の場所を失ってしまった47全都道府県出身の若手プロ音楽家が参加した「フルオーケストラ・リモートコンサート」、全国の吹奏楽部の学生を募集した企画「星影のエール 107人の全国の学生によるテレワーク合奏」、福島県にある59市町村を一つにつなぎ、各市町村が持つ特色を詰め込んだ「福島colors ver.」、父の日と母の日にちなんだ「父に贈るエール」「母に贈るエール」とそれぞれのバージョンを公開している。
今年に入って以降、彼らが投稿した動画のほぼ全てが「星影のエール」に関係しており、それも半年に渡ってもなお継続しているのだ。彼らにとって、「自身の身近な人を大事に想い合う」というのは、なにも楽曲だけのメッセージではなく、彼らの行動原理そのもの、彼らが音楽を活動を続けるコアな部分なのだろう。
彼らのコアを新たに封じ込めた「星影のエール」は、近年の彼らが発表した作品のなかでももっとも大きなチャートアクションを示している。彼らの代表曲の一つになりえるだろう。
■リリース情報
『星影のエール』
発売:2020年6月24日(水)
「星影のエール」限定プレミアムエール一番星 ¥1,900(税抜)
「星影のエール」通常盤 ¥1,000(税抜)
【収録内容】※初回限定盤/通常盤共通
01:星影のエール
02:ハロー グッバイ by “STAY HOME”
03:福ある島
04:贈る言葉
05:楽しくしゃべエール from 9SJ