ジム・ジャームッシュが体現する“音楽愛” イギー・ポップら歴代出演者集った『デッド・ドント・ダイ』を観て
ジム・ジャームッシュの次作はゾンビ映画らしいーーそう聞いた時は驚いた。ジャームッシュといえば、流れゆく日常の中にある一片のきらめきや、何気ない会話に漂う洒脱な味わいをスタイリッシュに描き出す監督。時に小津安二郎に喩えられることもある作風を持つ彼が、究極の「非日常」とも言えるゾンビとの対決をどう描くのか……。しかもこの映画、ゾンビ映画の始祖であるジョージ・A・ロメロへのオマージュ的作品でもあるらしい。ジャームッシュがロメロ映画の門下生だったとはまたビックリだが、独立独行の精神でサブストリームを歩み続けてきた両者には、確かに相通じる部分があるかも。
そんなわけで、期待値MAX状態で観た『デッド・ドント・ダイ』、まず、しみじみ凄いと思ったのはキャストの豪華さだ。
主演のビル・マーレイ(『ブロークン・フラワーズ』)、アダム・ドライバー(『パターソン』)を筆頭に、ティルダ・スウィントン(『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』)、クロエ・セヴィニー(『ブロークン・フラワーズ』)、スティーヴ・ブシェミ(『ミステリー・トレイン』)、RZA(『ゴースト・ドッグ』)などなど、ジャームッシュ映画の常連たちが勢揃い。かつてこんなに一級のキャストばかりで固められたゾンビ映画があっただろうか。中でも出色なのはイギー・ポップとトム・ウェイツ。『コーヒー&シガレッツ』(2003年)では実に小粋な会話を繰り広げていた二人だが、今作ではイギーがゾンビ、ウェイツが世捨て人に扮して重要な役どころを担っている。世に巨匠と称される監督は多かれど、ロック界が誇るレジェンドたちをこんな風に使えるのはジャームッシュだけだろう。
多くのミュージシャンと親交が深く、「音楽通」の監督として知られるジャームッシュの映画では、常に音楽、そして音楽に携わる人物が不可欠な役割を果たす。彼のフィルモグラフィーを振り返っても、ジョン・ルーリー(The Lounge Lizards)やジョー・ストラマー(The Clash)、スクリーミン・ジェイ・ホーキンスなど、ミュージシャンを重要な役に起用してきた例は枚挙にいとまがない。それは自身もミュージシャンでもあるジャームッシュが、ミュージシャンの醸し出す独特の雰囲気は時に演技を越えた説得力を持つことを知っているからに他ならないのだ。
音楽への愛を剥き出しに、1997年にはニール・ヤング&クレイジー・ホースのドキュメンタリー『イヤー・オブ・ザ・ホース』を撮っているし、2016年には前述のイギー・ポップが率いたパンクバンド、The Stoogesのドキュメンタリー映画『ギミー・デンジャー』を製作している。
最近ではギタービルダー(ギターを作る職人)の仕事ぶりに迫ったロン・マン監督のドキュメンタリー映画『カーマイン・ストリート・ギター』(2019年)に出演し、ミュージシャンとしての見地からギター作りの奥深さを取材していた。さらに先ごろ公開された、ジャック・ホワイト、ブレンダン・ベンソンらが率いるThe Raconteursのドキュメンタリー『The Racounteurs:Live at Electric Lady』では、ジミ・ヘンドリックスが設立したレコーディングスタジオ、エレクトリック・レディ・スタジオに赴き、彼らの制作風景を監督自らの語りによってレポート、メンバーへのインタビューも行なっている。表現の本質に迫る丁々発止のやりとりが聞けるのは音楽に精通しているジャームッシュならではだ(ちなみにジャック・ホワイトも『コーヒー&シガレッツ』に出演したジャームッシュ・ファミリーの一人)。