ライブ有料配信に「リアル」を置き換えることができるか ジャニーズ、乃木坂46などの動向から考察

ジャニーズと46の方向転換

 2010年代の音楽シーンを「商業的な」観点から振り返るうえで、48・46関連グループとジャニーズ事務所に所属するグループの存在感が非常に大きかったことに異論をはさむ余地はないだろう(価値判断ではなく事実として)。そんな彼らのビジネスモデルは、「コロナ禍」によって根幹から揺さぶられた。

 「会いに行けるアイドル」として世の中に打って出たAKB48が開拓してきた「ファンとの接触」を中心に据えた活動スタイルは、この数カ月でその行為そのものが「今はあまりしない方が良いもの」として上書きされてしまった。また、「三密」という新たな概念が浸透した今の社会において、「大人数」であることを売りにしてきた彼女たちはその存在意義そのものを問われかねない状況に陥った。事実、「リモート放送」に舵を切った『ミュージックステーション』を筆頭に、48・46グループを音楽番組で見るケースは格段に減少した。

 一方、ジャニーズ事務所は彼らのお家芸であった「ショーとしてのライブ」が封じられてしまったことで、その魅力をどのように伝えるべきかの再考を迫られた。CDショップが次々に閉鎖される中でもKing & Princeのシングル『Mazy Night』が大きな売上を叩き出すなど現時点で数字上の悲壮感はないものの、嵐の国立競技場ライブの延期を筆頭とする興行への風当たりの強さはこの先各グループの活動にとっての大きな足かせとなる可能性が高い。

 そんな状況において、音楽ビジネスのトップランナーである彼らは新たなチャレンジと向き合っている。その象徴的な取り組みが、『のぎ動画』であり、『Johnny’s World Happy LIVE with YOU』である。

 『のぎ動画』は、乃木坂46の初映像化ライブ・舞台映像、すでに映像商品化されたライブやCD特典映像等を楽しめる定額制動画サービス。サービスの収益の一部が新型コロナウイルス感染拡大防止を含む諸活動に対する支援として日本赤十字社へ寄付される。これまでもグループにはモバイルメールのように月額の費用の対価としてメンバーの動向を伝えるサービスが存在していたが、今回の『のぎ動画』がそれらと異なるのは「メンバーのパーソナリティそのものではなく、映像作品」を届けるものである点。このプラットフォーム上で初映像化されるライブがあることもすでに発表されており、従前の「“握手して会話をする”という接触の延長線上にあったサービス」とは異なるファン層の獲得が期待できる。現状のグループの人気を考えると、2年前からスタートしている同種サービス『AKB48グループ映像倉庫』を上回る話題となるのではないか。

 一方、新型コロナウイルス感染拡大防止に対する支援活動「Smile Up!Project」の一環として展開される『Johnny’s World Happy LIVE with YOU』は、6月16日から21日に展開される有料配信チャリティーライブ。すでにKinKi Kidsや嵐、関ジャニ∞といったビッグネームの出演も発表されている。チケットは入手困難、かつテレビやネットで放送されるケースも少ない、濃いファン以外にとっては「秘密の園」的な存在でもあったジャニーズのライブが有料で配信されるというのはかなり大きな変化である。

 『のぎ動画』『Johnny’s World Happy LIVE with YOU』、この2つの取り組みには「社会貢献」という同じ志があるが、より抽象化して捉えると「一般層への架け橋」「リアルの代替」の二点において共通項がある。

 普通にはチケットが取れない、またリリースされる作品が多すぎて気軽には後追いが難しい。それゆえ面白い取り組みがあってもなかなか世の中ごとにはならず、濃いファンの間で話題になるだけ。大きなアイドルグループのライブや映像作品は、人気に反してその内実が正しく周囲に伝わらない構造になっていた。オンライン上にそれらのコンテンツが正当な形で公開されることは、彼らを取り巻く多様な「誤解」(「アイドルは中身がない」「握手以外売り物がない」といった類のもの)を解消するきっかけとなるかもしれない。

 一方で、乃木坂46とジャニーズのグループはどちらも「オンラインでは体験できないもの=リアルな感触」を大事にすることでそのビジネスを駆動させてきた。コロナ禍を経て「リアルな感触」そのものが許されない状況下にある中、彼らはある意味で「禁じ手」に挑戦しようとしている。それは言い換えると、「リアルをオンラインで置き換えることができるか」というチャレンジでもある。

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