THE NOVEMBERS、激変する世界の様相を捉えた“新しい物語” 『At The Beginning』に描かれた未来への眼差し

 本作におけるもう一つ大きなトピックは、「Rainbow」と「楽園」を除く7曲のシーケンスサウンドデザイン・プログラミングを、yukihiro(L’Arc~en~Ciel、ACID ANDROID)が手掛けていること。具体的には、小林が予め組んだプログラミングのMIDIデータに、yukihiroがトリートメント・ブラッシュアップを施し、そこにバンドの演奏を重ねていく手法が採られたという。当初は4人のバンドアンサンブルに、yukihiroの素材を取り込んだ後でエディットしていく予定だったのが、順序としては逆になった。結果、yukihiroによる解像度の高いシーケンス・プログラミングにメンバーたちが「反応」しながら演奏することとなったわけで、それは全体のグルーブにも大きな影響を与えたのは間違いない。

 さらにいえば、かねてから小林の中にあった「父親としての視点」が、本作にも大きな影響を与えている。例えば「Rainbow」の、〈世界に号令をかけるように/君はここへやってきた/こわれるくらい叫びながら〉や、〈おもちゃみたいな/小さい靴を脱ぎ捨て/きみは目一杯/地面を蹴って未来へ走って〉というラインは、未知の世界へと飛び込んでいく子供たちの眼差しを、コロナ以降の新たな世界へとシフトする“私/私たち”の視点に重ね合わせているようにも取れる。そして、四方から降り注ぐ眩いシューゲイズサウンドは、無垢な子供たちを外敵から守るシールドのようだ。

「“私”という存在と、“私たち”そして“彼ら”の間のグラデーションを意識すること。要は、いろんな視点を持つことで手の動かし方や眼差しは変わってくるじゃないですか。これまでの世界は確固たる“私”、つまり個人こそ価値あるものとして進んできたけれど、一旦リセットしてみるというか。私は“私たち”にも“彼ら”にもなれることを意識しながら、作品に触れると面白いんじゃないかと思います」(『CROSSING CARNIVAL'20 -online edition-』にて)

 “子供”という、大人の理屈が全く通じない“他者”とのコミュニケーションを経験した小林が、“視点の移動”をより強く意識するようになったのは明白である。「理解者」の〈これ俺の気持ちだっけ?/これ俺の?/ねえ〉というフレーズも、“私”の境界線が曖昧になっていくことへの安堵感と不安感を、ポストパンク~インダストリアルなサウンドの中で同時に表現しているのだ。

THE NOVEMBERS「理解者」

 さて、「消失点」を経て「未来からのイメージ」を纏った4人は、これまでの価値観が全てひっくり返った世界を緻密に描いていく。例えば、ガムランのようなサウンドを導入し、〈愛もそこでは昔話さ〉〈悪もここではおとぎ話さ〉と歌われる「楽園」や、ミック・カーンが憑依したような高松浩史のベースの上で、〈過去はくれてやる/ありったけを全部/昨日の僕らじゃ信じられないよここは/いままで大事にしてきた/リボン付きの箱たち/明日には全部あっけなく/がらくたになるよ〉と歌われる「New York」。それらはまるで、シンギュラリティを越えた世界を歌うと同時に、コロナ禍の先の未来を見つめているようでもある。

THE NOVEMBERS「楽園」
THE NOVEMBERS「New York」

 ハイナー・ミュラーの劇作から曲名を拝借したと思しき「Hamletmachine」を経て、美しいバラード「開け放たれた窓」でアルバムは幕を閉じる。この曲や「消失点」の伸びやかでソウルフルなメロディには、小林自身も公言しているCHAGE and ASKAやエンヤからの影響も、きっとあるはずだ。〈透明な鍵を壊して/青いペンキで塗られた/空を突き破れ〉と歌われる「開け放たれた窓」の歌詞は、どこか映画『トゥルーマンショー』のラストシーンを彷彿とさせる。誰かによって作られ、コントロールされた偽物の世界を飛び出し“リアルワールド”へ。〈波にもまれ漂う/泥にまみれた昔の神様〉を背に見る、その世界は一体どんな姿をしているのだろうか。

THE NOVEMBERS「Hamletmachine」
THE NOVEMBERS「開け放たれた窓」

 コロナ禍によって剥き出しになった社会の、あるいは人間の本性。そこから目を逸らすことなく僕らは進んでいくしかない。これまでTHE NOVEMBERSの4人が、たとえどんなに醜いものの中にも「美」を、どんな暗闇の中でも「光」を見出してきたように、アフターコロナの世界がたとえどんなものであっても、僕らはそこに「美」を、「光」を見出していくしかないのだ。『At The Beginning』を携えて。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。ブログFacebookTwitter

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