THIS IS JAPAN主催オンラインフェスを徹底レポート 10組が示した、ロックバンドの矜持とライブへのこだわり
5月2日、THIS IS JAPANが主催するオンラインフェス『NOT FORMAL Vol.11 STAY HOME GIG』が開催された。場所は杉森ジャック(Vo/Gt)の自室である“倉庫スタジオ”。出演者はホストの杉森に加え、宮田翔平(The Whoops)、ケイタ爆発 (勃発)、タバタヒナ(THE TOMBOYS)、HIYOKO a.k.a. CHICK BOY(FRSKID)、Kazma Kobayashi (Bearwear)、宮本菜津子(MASS OF THE FERMENTING DREGS)、須田亮太(ナードマグネット)、小室ぺい (NITRODAY)、GIMA☆KENTA (愛はズボーン)の10組。それぞれが自身の自宅やスタジオから弾き語りで参加した生配信ギグである。
イベント開催の動機として、THIS IS JAPANからは「こういう(コロナ禍の)状況でも、自分達がやれることがあるなら全力でやってみたい。2020年5月2日を振り返った時、楽しかったと言えるように」と説明された。アナウンスされたのは開催の1週間前。自粛が続く中で何ができるかを考え、浮かんできたアイデアを急ピッチで形にしたのだろう。
実際、ライブハウスで生きてきた彼らにとっては、切実なものがあったはずだ。翌日、杉森ジャックとはほんの少しだけZoomで話をさせてもらった。「ライブハウスでライブができない、4人で集まることもできない。そんな状況では、THIS IS JAPANとしてやれることはないんじゃないかって、そのくらい追いつめられていた」と告白してくれた。彼らにとってこのイベントは、ライブバンドとしての矜持を示すものでもあったと思う。
さて、イベント当日である。企画した彼らにとっても、参加した9組のバンドにとっても、初めての試みだ。多少のとまどいはきっとあっただろう。音質ひとつ取っても、どうしたって万全なものにはならないのだから。だが、本人達にとっても、期待していた以上の充足感があったように見えた。1組目のThe Whoopsからトリのディスジャパまで、それぞれの持ち時間は25分。15分演奏し、残りの10分はホストであるディスジャパメンバーとトークをするというものである。そこで彼らが口にしていたのは、「リハーサルがあると急にライブっぽくなるね!」ということで、この日1日の行程に喜びを感じていたように思う。「みんなでひとつのゴールに向かっていく意識を感じました。最後の出番で歌う時、ここで下手なライブをして、今日1日を台無しにしたくないというプレッシャーがあって。久しぶりにライブをやり終えた時の疲れ方をしたんですよ」とは、翌日の本人の弁である。
その「疲れ」こそ彼らが欲していたものではないだろうか。「『ライブを見た実感があった』というお客さんのコメントが嬉しかった。その『実感』なんですよ。それは俺らも一番求めていたものだから」と杉森が語ってくれたが、現場でしか生まれない高揚感はきっと今誰もが求めていることだろう。そう思うと、この日集まったバンドの人選には、必然的なものがあったように思う。皆ディスジャパ企画のコンピに参加したバンド達であり、ロックバンドの現場にある、ヒリヒリとした空気を誰よりも知っているアーティスト達だ。
一番緊張感があったように思う、トップバッターを務めたThe Whoops・宮田には殊勲賞をあげたい(彼はディスジャパメンバー曰く「完璧な後輩」とのことである)。弾き語りで聴く「手紙」もやっぱり良かった。一方、普段あまり弾き語りをしたことがないというTHE TOMBOYS・タバタと、Bearwear・Kazmaのライブはレアである。主催者の杉森を除き唯一エレキで弾き語った前者や、病院の診察券を折り曲げて急遽ピックを作ったという後者には、普段は見ることのない新鮮な姿があった。また、アーティストの部屋を覗けるのも楽しさのひとつ。自身で手掛けたイラストがいくつも飾られたHIYOKOの自室は、マジでオシャレ。カラフルな楽曲が生まれる原点には、やっぱり華と知性があるのだ。杉森の倉庫スタジオをバンドで例えるならOasis、HIYOKOの部屋はBlurだ。
機材トラブルで姿を見ることのできなかった小室ぺいは、逆説的に彼の声が際立っていた。歌っている表情は見えずとも、言葉が突き刺さってくるような歌である。マスドレ・宮本はズバ抜けて魅力的な歌を披露。どんな条件でも一定のパフォーマンスを出せるのは、キャリアに裏打ちされた地力があるからだろう。そして2番目に登場した仙台発の勃発・ケイタ爆発や、ナードマグネットの須田、愛はズボーンのGIMAといった関西の2組は、限られた空間の中で自身の持ち味を見せる術に長けていた。間に挟むMCを含め、彼らの弾き語りにはリズムがあり、PC越しでも自分達の魅力を伝えるのが上手い。中でも、あえて語らないようにしていたのか、誰からもコロナ禍の状況へのコメントはなかった中、「自分は怒っている、どこにぶつけていいのかわからない怒りがある」と訴えたGIMAの歌には、心に迫るものがあった。彼は色気を纏ったブルースマンである。