コロナ禍のなかで生まれた新たな音楽体験ーートラヴィス・スコット『Astronomical』を機に考えるライブの可能性

新たなパーティの現場としての音楽×ゲームの未来

 今回の『Astronomical』は大きな結果を残しており、今後もさらに『フォートナイト』上での音楽イベントは続いていくことであろう。また、この試みに刺激を受けたアーティスト側からのコラボレーション依頼もすでに数多く届いているのではないかと予想される。そして、実は『フォートナイト』ではその土台のようなものがすでに誕生している。

 先日『フォートナイト』に実装された「Party Royale」というモードは、本来のゲームの目的であるバトルを行わず、フレンド同士でゲームフィールド上でのアクティビティを楽しむという内容となっている。フィールドにはDJブースが用意されているのだが、おそらく今後はこのDJブースを活用して、様々な著名DJが『フォートナイト』上でDJプレイを行い、パーティを盛り上げるであろう。実はすでにディプロ率いるMajor Lazerが5月1日にサプライズ出演しており、ゲーム内のスクリーンに本人が登場しながら、ゲームフィールドを大いに盛り上げている。

 「Party Royale」は明らかに今後様々なDJやアーティストが出演することを想定した上で作られたモードであり、この場所を中心に様々なパーティが行われていくであろう。もちろん『Astronomical』のように莫大なコストを費やしてゲームをフル活用してクリエイティビティを発揮するアーティストも今後はどんどん登場するはずだ。

 現実を超えた体験を、ゲームが抱える驚異的な人数へ届けることができるという環境は今のところ『フォートナイト』以外では有り得ない。2000年代に入ってからは音楽フェスがパーティの中心となり、ベテランのアーティストがファン層の刷新を図ったり、Daft Punk等の先鋭的なアーティストが新たな技術を取り入れた今までに見たことのないステージを作り上げるといった光景が見られたが、今後はそれが『フォートナイト』などのゲーム上で実現されるという可能性も大いに考えられるだろう。

 また、『DEATH STRANDING』のように他のゲームと音楽のクロスオーバーについても、さらに加速していくことが予想される。大きなトピックとしては、今年リリース予定の大作『サイバーパンク2077』が挙げられるだろう。同作にはすでにRun the Jewelsやニーナ・クラヴィッツといった多くの著名アーティストが参加を予定している。それもただ既存の楽曲を提供するのではなく、ゲームの世界観に共振したアーティストたちがそのサウンドトラックを手掛けるという深いコラボレーションとなっており、人気ポップアクトのグライムスに至っては楽曲提供のみならずゲーム内キャラクターの声優としても参加が決定している。もしかしたら同作を中心としたライブイベントといった、リアルへの拡張も行われるのではないだろうか。

 『フォートナイト』や『DEATH STRANDING』に共通するのは、ゲームが提示する世界観やそこにあるコミュニティに対してアーティストが共振し、お互いのクリエイティビティが交わることで新たなエンターテインメントが誕生しているという点である。これは今までも映画やフェスティバル等で見られてきた光景ではあるが、特に進化が著しいゲームだからこそ、今はここで特に興味深い動きが起きているというわけだ。2020年はPS5やXbox Series Xなど次世代のゲーム機が登場する年でもある。今後は現実だけではなくバーチャルの世界も含めた上で、これまで見たこともないようなライブパフォーマンスが続々と生まれていくのではないかと期待している。

■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。
シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
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Twitter : @neu_mura

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