『噛む』インタビュー
MOSHIMO、新体制初アルバム『噛む』での挑戦 「自分をもっと強く出さないと目指すところに進めない」
日々の生活の中で生まれる葛藤、不安、希望をストレートに放ちまくる歌、そして、グランジ、オルタナ、ヘビィロックなどをポップに昇華したバンドサウンドによって、確実に支持を高めているMOSHIMO。今年1月にドラム、ベースが脱退し、岩淵紗貴(Vo&Gt)、一瀬貴之(Gt)の2人体制となったMOSHIMOは、一瞬も止まることなく、さらなる前進を続けている。その最初のアクションが、ニューアルバム『噛む』のリリース。ライブを想起させる生々しいサウンドメイク、自らの現状をリアルに反映した歌が一つになった本作には、2人の現在のモードが強く刻み込まれている。(森朋之)
「今までで一番“バンドをやってるな”という実感がある」
――ニューアルバム『噛む』は、岩淵さん、一瀬さんの2人体制となって最初の作品ですが、メンバーが脱退した時の受け止め方はどんな感じだったんですか?
一瀬貴之(以下、一瀬):去年はフェスにもたくさん出させてもらって、アルバム『TODOME』のツアーもあって。去年の末にメンバーから抜けたいという話があったんですが、すぐに「ここで止まるわけにはいかない」と思いましたね。ライブのお客さんも増えていて、バンドの調子は全然悪くなかったので。同じタイミングで前のレーベルを離れたので、次の日に自分たちで会社を立ち上げて、下北沢の古閑さん(古閑裕/KOGA RECORDS代表)に相談して、(KOGA RECORDS内に設立したプライベートレーベル・Noisyから)アルバムを出そうということになって。
――すぐさまレコーディングに入ったと。
一瀬:はい。もともと3月にリリースしようと思ってスタジオを押さえていたので。鼻歌みたいなデモはあったから、レギュラーサポートメンバー(汐碇真也/Ba、高島一航/Dr)と一緒にスタジオに入って、一から曲を作っていきました。
岩淵紗貴(以下、岩淵):「ここが正念場だ」と思ったし、活動を止めてしまうと戻れなくなるだろうなと。まったく止まる気はなかったです。
一瀬:コロナで止まっちゃったけどね。3月1日に東京でライブをやったんですけど、それ以降は一切ダメで。早く落ち着いてほしいです。
――ホントですよね……。制作がスタートした時、アルバムの全体像はあったんですか?
岩淵:うーん……。一瀬がどう思ってるかはわからないんだけど、自分にとって2019年はダーッと突っ走った1年だったんです。さらに(2020年)9月にZepp DiverCity(TOKYO)でやろうと決めて、3月にアルバムをリリースすることになって。もちろんやりがいはあるんだけど、もっとレベルを上げるためには足りないものが多すぎると思ったんですよね。外からの刺激も足りないしーーこんなこと言うと、人のせいにしてるみたいだけどーーもう一歩進むためには、自分自身がもっともっと頑張らないとダメだなって。
――バンドの状況は確実に良くなってるけど、岩淵さん自身は物足りなさを感じていたと。
岩淵:そうですね。同じところをグルグル回ってるんだったらそれでいいけど、もっと上に行きたいので。どんどん上がっていってるバンドの人たちと話をしていても、自分には足りないものがたくさんあるなって。(リスナーに)寄り添う力もそうだし、逆に嫌われる勇気を持つことも必要だし。ただ、前のメンバーが抜けた後、皮肉なもので、スラスラ曲が書けるようになったんです。
――メンバーの脱退によって危機感が高まり、制作のモチベーションにつながったのかも。
岩淵:その時期の私たちの目線がしっかり入った6曲になってますね。自分自身をもっと強く出さないと目指すところに進めないし、その第一歩となるアルバムだなと思います。MOSHIMOがどういうバンドなのかを伝えるためには、ボーカルとしてセンターに立っている自分が、もっとわかりやすく自分の言葉を発信しないとダメですけどね。
――そういう話は普段からしてるんですか?
岩淵:最近するようになりました。そういう話って圧が強いし、鬱陶しいかなと思ってたんだけど、ちゃんと言葉にしないと自分自身も動けないので。話すことで、自分にプレッシャーをかける意味もありますね。
一瀬:岩淵が言ってることは、自分もめちゃくちゃ感じていて。僕もかなり前のめりだし、2人で突っ走ってるというか。暴走することもありますけどね(笑)。
岩淵:(笑)。今はいい感じですけどね。新しいサポートメンバーが決まって、正直、今までで一番「バンドをやってるな」という実感があるんですよ。「ライブで好き勝手に動いて、迷惑かけるかもしれないけどゴメンね」って言ったら、2人とも「ポチ(岩淵の愛称)がどんどん進んでいくことで、俺たちだけでは行けない場所に行けるのが嬉しい。全力でサポートするから、ガンガンやってくれ」って。今まではそういうふうになれなかったから、楽しいです。
――技量のあるミュージシャンだし、アンサンブルも広がったのでは?
岩淵:そうですね。私も上手いわけではないから偉そうなことは言えないけど(笑)、技術的にもグンと上がったと思います。ベースのことでいうと、ルート音を弾くだけではなくて、すごく動いてくれるんですよ。そのことで曲全体に立体感が出て、メロディも活きて。ドラムはしっかり強弱を表現してくれるし、「ここは何も考えず、音のデカさで勝負しよう」ということもできるんですよ。
一瀬:(ドラムの高島は)見た目はめちゃくちゃロックなんですけど(笑)、音大出身で、いろんなジャンルを叩けるんですよ。アレンジに関しても、自分にはない引き出しを持っているし、新しいアイデアを出してくれて。すごく楽しいし、刺激がありますね。
――ライブ感のある生々しいサウンドも印象的でした。
一瀬:そこは意識してましたね。今までのレコーディングはキレイに録っていたというか、「上手く弾こう」みたいなことを考えていて。今回のアルバムはそうじゃなくて、ライブの感じをそのままCDにしたかったんですよね。ボーカルのピッチもほぼ直してないし、「バンドマン」という曲では、歌詞を間違えたりもしていて。
岩淵:(笑)。
一瀬:よく「音源とライブが全然違う」「ライブのほうがいいね」って言われてたんですが、このアルバムはそういうギャップが少ないんじゃないかなと。
岩淵:「ライブのテンションで、いいものを作る」というのが大前提だったんですよ。少々ピッチがズレても気にしないで、思い切り歌うというか。スタジオでも暖房をガンガン効かせて、タンクトップで歌ってたんですよ(笑)。
一瀬:普通は冷房入れますよね(笑)。
岩淵:「今ちょっと音を外したな」とか、冷静になっちゃうのがイヤだったんで。エンジニアの人が言ってたんだけど、声量というか、声自体もデカかったみたいです。爆音の中でライブを続けてるから、喉が鍛えられたのかも(笑)。