『Life』インタビュー

宮本笑里に聞く、クラシック×J-POPの境界線を進み続ける理由 ナオト・インティライミ&春畑道哉から得た“学び”

(「Bitter Love」は)ナオトさんに導いてもらいながら作曲しました

宮本笑里×ナオト・インティライミ

ーー続く「Bitter Love」は、1曲目の「Delight」と同じくナオトさんとの共作曲です。

宮本:この曲もセッションで作らせてもらって、数十分で形になりました。切ないメロディの楽曲をあまり生み出せてなかったので、そういう旋律の曲を作りたくて。ナオトさんに導いてもらいながら作曲しました。

ーー切ないメロディの曲が少なかったのは、どうしてなんですか?

宮本:私は切ない曲を作曲しようとすると、メロディがどんどん悲しい方向にいっちゃうんです。それはあまり良くないなと思って、元気になれる曲、明るい曲を意識しているうちに、今度はそれが癖になってしまって。今回はナオトさんのおかげで、切なさが感じられる曲になって良かったです。

ーー音楽にとって“切なさ”は大事な要素ですよね。

宮本:そうだと思います。この曲にも「Bitter Love」という曲名通り、苦い思いみたいなものが反映されていて。恋愛だけじゃなくて、自分の意図と違うふうに伝わって、人を傷つけてしまったり、愛情を持って接しているつもりだったのに、それが伝わらなかったり。そういうことは、日々の生活のなかで誰しもが経験することだと思うんです。そのなかにも明日につながるような幸せな瞬間があって、それを含めて、1曲のなかで表現できたんじゃないかなと。

「Bitter Love」MV

ーー4曲目の「Marina Grande  Acoustic Version」は、宮本さんの作曲による「Marina Grande」のアコースティックバージョン。原曲はアルバム『for』(2010年)に収録された楽曲で、展覧会『レンブラント 光の探求/闇の誘惑』のテーマ曲としても話題を集めました。

宮本:「Marina Grande」は10年ほど前の曲で、その頃に担当させていただいた『news zero』のカルチャーキャスターの経験がすごく影響していて。いろいろな文化人の方々と対談させていただき、それまで知らなかった文化に触れることができて。そのなかで得たことも込められているんですよね、この曲には。「Marina Grande」は“青の洞窟”という意味で、17世紀、バロック時代のヨーロッパの海もイメージしていました。私自身、海が大好きで、ずっと元気をもらっているので……。原曲はかなり壮大な作りなのですが、今回は小編成のシンプルなアレンジになっています。ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラなど弦の持ち味が活かされていて、原曲とはまた違った世界を感じてもらえたらなと。

コラボから得た、作曲家としての“学び”

ーーそして最後に収録されている「Landscape」は、宮本さんの作曲による新曲。クラシカルなメロディと現代的なサウンドのバランスが絶妙だなと。

宮本:ありがとうございます。楽曲のテーマとしては……いまの時代はすごくスピードが速くて、いつも時間を気にしながら生活している感覚があって。でも、馬車で移動していた時代は、こんなに急いで生きていなかっただろうなと考えることがあって。どちらにも良い部分はあると思うし、その両方を表現できる曲を作りたかったんですよね。時計の音が入ってるのも、時の流れを表したかったから。応援歌のようなイメージもありますね。

ーーアレンジを手がけた久保田真悟さん(Jazzin’ park)はJ-POPシーンのヒットメイカーですね。

宮本:久保田さんがインスト楽曲のアレンジを手がけるのは今回が初めてだったそうですが、タイトル通り、いろんな風景を見渡しながら飛んでいるようなサウンドにしてくださって。メロディも活かされているし、高揚感もあって、すごく魅力的なアレンジだなと思っています。

ーー新しいトライも多いし、宮本さんにとっても意義深い作品になったのでは?

宮本:そうですね。自作曲を中心とした作品は初めてだったので、制作が決まったときは「どうなるんだろう?」という不安もあったんです。でも、みなさんの協力のおかげで、素晴らしい作品になったと思います。「ヴァイオリンって、こういうこともできるんだ」と感じてほしいし、年齢、性別、国境を越えて、たくさんの方に楽しんでもらえたら嬉しいですね。

ーー作曲家としても得られるものがあった?

宮本:すごくありました。制作を通して成長できてればいいなと思うし、同時に「もっとたくさん勉強しないと」という気持ちにもなっているので。自分で作曲する曲も増やしていきたいし、みなさんにお届けしたいと思います。

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