『愛はヘッドフォンから』インタビュー

藤川千愛、『愛はヘッドフォンから』ジャンルレスなシンガーとしての挑戦 音楽に対する“感謝”の思いも語る

 デビュー2年目を迎えたシンガーの藤川千愛が1stアルバム『ライカ』から約1年ぶりとなるニューアルバム『愛はヘッドフォンから』をリリースした。本作には4週連続でリリースされた配信シングルに加え、アニメ『デジモンアドベンチャー:』のエンディングテーマに起用された新曲「悔しさは種」やASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)「遥か彼方」のカバーを含む全14曲が収録されている。R&Bやジャズ、フォーク、シティーポップにギターロック、バラード……。

 前作以上に多彩さを増したサウンドの中で、彼女は決して変わることへのない音楽への愛を独特の節回しで歌い上げている。どんなジャンルでも歌いこなせる高いスキルと他の誰にも似ていない歌心を持つ彼女にとって、本作はシンガーとしての確固たる実力を世間に知らしめるに相応わしい作品と言えるだろう。(永堀アツオ)

世代を超えて聴いてもらえるアルバムに

ーー昨年の11月に新木場コーストでのデビュー1周年記念ライブを終え、2年目に向けてどんな気持ちでいましたか?

藤川千愛(以下、藤川):気負いすぎかもしれないんですけど、もっともっといい歌を唄いたい、届けたい。それだけでしたね。

ーー同時に4カ月連続配信シングルのリリースをスタートしました。多重録音のロックバラード、ジャズ、フォークロックと様々なジャンルに挑戦したのはどんな理由からでしたか。

藤川:本当にいろんなジャンルをやりたいなと思っていて。なんというか……何を歌っても同じだよねって言われるような歌手にはなりたくないなって思ってるんですね。だから、今、いろんなジャンルに挑戦することで、自分ができることもわかるし、苦手なこともわかる。それに、こういうやり方もあるんだなって、自分の引き出しが増えることが楽しいなと思ってて。最近だと、R&Bを取り入れたりしてるんですけど、これからもいろんなジャンルを挑戦していきたいと思ってますね

ーー配信第1弾の「引き寄せられて夢を見る」はボーカルを多重録音した幻想的なロックバラードになってました。

藤川:普段からハモはたくさん録るんですよが、私の曲では本線を重ねることは凄く珍しいんですよ。レコーディングの時間自体はいつもとそんなに変わらない感じだったんですけど、トラックダウンチェックで聴いた時に、すごく今っぽいというかカッコいい感じになっていて『オッ』って思いました。歌詞は、頭から離れなくて、自分で引き寄せてしまう、忘れられないっていう気持ちを書いたんですけど、今までにないサウンドになったし、私はすごく好きだなと思いました。

藤川千愛「引き寄せられて夢を見る」

ーー第2弾「おまじない」はジャズでした。

藤川:すごく楽しかったですね。初めてのジャズだったんですけど、ジャズって決まりがなくて、アドリブがあるじゃないですか。ライブでも同じようには絶対にならないし、それがいい味になってるなと思って、歌っていてとても遣り甲斐のある曲です。

ーーこの曲も「引き寄せられて夢を見る」と同じく、片思いですよね。

藤川:そうですね。意中の人に仕掛ける恋心を歌ってます。赤いルージュを強めに引いてみたり、香水をまとってみたり。女の子がよくやるやつですね。

藤川千愛「おまじない」

ーー(笑)。第3弾「私にもそんな兄貴が」はフォークロックです。

藤川:自分のちょっとしたコンプレックスを素直に歌ってますね。よく、アーティストさんがインタビューで「ビートルズを聴いてました」とか、「兄貴の影響で洋楽しか聴かなかったですね」とか、言っていたりするじゃないですか。私はそういう環境をうらやましく思っていて。自分は昔からJ-POPばかり聴いてたので、もしそんな兄貴がいたら、自分は今、どんな歌を唄ってるのかなという疑問から作った曲です。

ーーでも、おじいちゃんが演歌歌手という出自がなければ、「おまじない」での巻き舌とか、独特のコブシを効かせた歌い方もなかったわけで。

藤川:そうですよね。でも、最近、R&Bの曲も増えてきたのでブラックミュージックの歌い方とか、リズムの取り方がもう少しあったらなって悩むことが多くて。だから、余計、そういう環境がうらやましく思ったりしますね。

藤川千愛「私にもそんな兄貴が」

ーーなるほど。そして、第4弾の「あなたを嫌いになれました」はダークなムードのピアノバラードとなってます。

藤川:これは、好きになってはいけない人を好きになってしまった時についた嘘と人魚姫の物語を重ねて書いた曲で。歌詞を書いているときから具体的なイメージがあったので、海の底を連想させるような音色とか、サビでロングトーンを入れたいとか、音作りに関しても、いろいろとリクエストをお伝えして

ーー最初からイメージがあったんですね。

藤川:そうですね。人魚姫はが好きな人のために真実を伝えないのですが、これはある意味、嘘だと思うんです。現実世界では、好きになってはいけない人とか、友達と同じ人を好きになってしまった時に、本当の気持ちを隠すっていうことが優しい嘘だなと感じていて。

ーーじゃあ、このタイトルも嘘の1つなんですね。

藤川:最初、「嘘」っていうタイトルだったんですよ。でも、「あなたを嫌いになれました」の方がインパクトがあるかなと思って。

ーー想像していたものと違いました。本当に何か嫌いになる出来事があって、より相手を嫌いになろうとする歌かと思いました。

藤川:うんうん。いろんな解釈があっていいと思います。

藤川千愛「あなたを嫌いになれました」

ーーこの4曲でいろんなジャンルに挑戦した上で、2枚目のアルバムはどんな作品にしたいと考えていましたか?

藤川:具体的なコンセプトはないんですけど、繰り返し聴いてもらえるアルバムになったらいいなと思って。最近はスマホで簡単に音楽が聴ける時代だから、一発検索とかだと、お目当ての曲を聴くまでのドキドキ感やワクワク感を感じることって少なくなってきていて。聞き流されたり、捨てられていく曲もあると思う。でも、だからこそ、アルバム全体のストーリーを感じながら、繰り返し繰り返し聴かれるアルバムであってほしいなと思うし、世代を超えて聴いてもらえるアルバムになったらいいなと思ってました。私自身、お母さんの影響で80年代〜90年代のJ-POPを聴いていたので、そのように世代を超えて聴き継いでもらえたらいいなと思います。

ーーアルバムは大きく分けて、前半が”夢や青春”、後半が”恋愛”をテーマにしているように感じました。

藤川:偶然ですね(笑)。本当にコンセプトはなかったんですよね。強いていうなら、アルバムを通して、ライブのように楽しんでもらいたいなということで、ライブのセットリストをイメージして組んでますね。

ーーそうなんですね。では、オープニングナンバーの「東京」について聞かせてください。先ほど、R&Bを歌ってるという話もありましたが、この曲はまさに90’sマナーのR&Bになってます。

藤川:アルバムの中で、おすすめの曲を1曲だけ選んでって言われたら、「東京」をあげるくらい、自分の中でしっくりきてる曲ですね。前作のアルバム『ライカ』の表題曲「ライカ」もR&Bだったんですけど、R&Bを歌う時は、自分の気持ちいいグルーヴを感じながら歌いたくて。グルーヴについて考えすぎたというか、悩んだ時期もあって。この曲だけレコーディングに2日間かかってしまったんですね。1日目は納得いくものができなくて。でも、そのくらい、こだわらせてもらえる環境を作ってくださったスタッフさんに感謝しています。

藤川千愛「東京」

ーー考えた結果の答えというのは?

藤川:聴いてる人が勝手に乗っちゃうようなものがグルーヴかなと思って。自分だけが気持ちいいだけじゃなくて、ライブで聴いてくれる人も自然と体が揺れちゃうようなグルーヴを意識しながら歌いましたね。

ーー歌詞は“あの頃の夢”をテーマにしてますよね。

藤川:何をやってもうまくいかなくて、前に進めない気持ちを歌っているんですけど、高校の時に進路相談があって。先生に「歌手になりたいです」って言ったら、めっちゃ馬鹿にされて、「諦めろ」って言われたんですよ。 

ーーそれはひどいですね。

藤川:その時に、「こんな大人にはなりたくないな」って思って。でも、今、振り返って考えてみると、学校の先生に歌手になる成功の道を教えてもらうことは無理だと思うんですよね。先生はきっと想像すらできないと思う。だから、今、学生で進路に悩んでる人がいるなら、もしもプロ野球選手になりたいんだったら、プロ野球選手に聞いた方がいいと思うし、俳優さんもデザイナーさんも、その道を行く人に夢を相談するときは聞いた方がいいなと思うんですよね。

ーー藤川さんは先生にそう言われても、3歳の頃から夢だった歌手への道を歩んだわけですよね。

藤川:そうですね。その頃から絶対に夢は叶うって思ってたし、先生のこと見返してやろうって思ってましたね。絶対に好きなことをして生きていきたいなって思っていたし、その選択は間違ってなかったなって思う。この曲で歌ってるのは、大人の価値観を押し付けられて、自分が本当になりたいものを我慢して進学や就職をしたけれども、結局、うまく言ってないな〜っていう時の心情なんです。だから、今、悩んでる学生さんたちには、この曲を通して、大人が押し付けてくる価値観を聞かずに、自分のやりたいことをやってほしいなっていうメッセージが伝わるといいなと思いますね。

ーー夢を叶えてきた藤川さんだからこその説得力があると思います。ご自身にとって東京とはどんな場所ですか。

藤川:私、地元の岡山が大好きなんですよ。歌手をやっていなかったら、東京にはいないなって思います。東京にいても、おうちに引きこもってるんですよ。音楽を聴いたり、ゲームをしたり、YouTubeを見たりしてて。岡山と東京、どっちにいても生活は変わらないと思うので、夢を叶えるためだけの場所って感じです(笑)。

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