ukka、つりビット、tipToe.……アイドル論客4名が回想する、インディーズシーンに起きた数々のドラマ

 アイドルが1年間に発表した曲を順位付けして楽しもうという催し『アイドル楽曲大賞』。2019年のインディーズ部門ランキングでは、ukka(桜エビ~ず)、フィロソフィーのダンス、nuanceなどが高順位にランクインした。

 リアルサウンドでは『アイドル楽曲大賞アフタートーク』と題した座談会を開催し、ライターとして企画・編集・選盤した書籍『アイドル楽曲ディスクガイド』を著書に持つイベント主宰のピロスエ氏、コメンテーター登壇者からはアイドル専門ライターであり、『IDOL NEWSING』制作・運営に携わる岡島紳士氏、著書に『MOBSPROOF EX CREATOR LIFE is HARD「渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする」』を持つ音楽評論家の宗像明将、日本各地を飛び回るDD(誰でも大好き)ヲタの中でも突出した活動が目立つガリバー氏が参加。公演では、インディーズアイドルシーンを中心に、楽曲の傾向や活動論、2020年の展望について語り合ってもらった。(編集部)(前編:エビ中の成長、日向坂46の躍進、女性アイドルの結婚……『アイドル楽曲大賞』2019年のシーンを振り返る

ukkaはメジャーにいってもおかしくない(岡島)

ーーインディーズは、桜エビ~ず(2019年11月ukkaに改名)が2018年6月から続けてきた12カ月連続リリースの作品が20位以内に7曲ランクインしています。

ピロスエ:連続リリース自体は、ほかのアイドルもやっていて、過去にはアップアップガールズ(仮)が2013年に8カ月連続CDリリース、フィロソフィーのダンスが定期公演で1カ月に1回新曲を披露して、それをすぐ配信リリースしています。たくさんリリースしていても、結局のところ曲自体に力がないとランキング上位には入ってこないので、個人的には納得していますね。

ーー1位には「それは月曜日の9時のように」(以下、月9)が輝きました。

ONIGAWARA × 桜エビ〜ず「それは月曜日の9時のように」 @ 新宿LOFT -New Album「octave」(8/21 release)-

岡島紳士(以下、岡島):ONIGAWARAが提供した曲で、月9ドラマ的な情景描写が詰まったシティポップです。

宗像明将(以下、宗像):周りのアイドルファンもこの曲をフックアップしてた。

ピロスエ:ほかのファンの票が入ってこないと1位にはならないんですよね。

ガリバー:アイドルフェスでのアンセムでしたね。これ一発でみんなが沸き立つ。

岡島:桜エビ~ずは、2015年に私立恵比寿中学の研究生ユニットとして始まって、エビ中のカバーをしたりもしていたんですけど、12カ月連続リリースぐらいからカッコいい路線として、どんどん楽曲が覚醒して、藤井(ユーイチ)校長の思いに上手くファンの気持ちも乗っかっていった。独立して活動していくのが見えましたね。

ガリバー:水春さんが吉田豪さんの「猫舌SHOWROOM」で、桜エビ時代は「研究生、妹分というのがあったから、辛くて嫌だった(時もあった)」と話していたんです。エビ中とセットで出演することが多くて「桜エビに時間使うならエビ中に時間割け」と言われたりしながらも、ファミリー(エビ中ファンの総称)からはSNSにきつく書かれ、メンバーは一緒に共演したくないとも言っていたと時期があったと。だから、メンバーも改名したかった気持ちはあったんだろうし、きちんと独立しできて良かったのかなと今になって思いましたね。

ーーけやき坂46が日向坂46に改名した時のような。

ガリバー:流れとしては被るものがありますね。

岡島:私立恵比寿中学に対して、桜エビ~ずと名乗ってるくらいなので、ファンとしてもどう向き合っていくのか難しい期間は長かったですよね。

ガリバー:上手くサブスクリプション時代に乗っかったのは今っぽいなと思います。

岡島:12ヶ月連続リリースではそれぞれの曲のMVや、何台もカメラを使ったライブ映像を制作、公開していました。どれもクオリティが高いものでした。

宗像:アイドルファンに限らず、音楽リスナーにリーチするためには、CDを出すだけじゃなくて、サブスクとYouTubeに上げるのが最低限のセット。かつ桜エビの場合は楽曲、作家のセンスですよね。僕は5位の「214」が大好きなんですけど、これはsasakure.UKが作詞、作曲、編曲を担当していて、MVは森岡千織さんが台湾で撮影した映像でめちゃくちゃいい。そういった人のチョイス、クオリティですよね。

桜エビ〜ず「214」MV -New Album「octave」(8/21 release)-

ーー2位には「キラキラ」が続きます。

岡島:ファンと一緒にシンガロングする楽曲です。後半につれてより一層盛り上がって行く。2位になったのはライブに行っているファンの気持ちも乗っかったからかもしれないですね。

ガリバー:7位の「ねぇ、ローファー。」はバラード調の切ない楽曲で、これを自分たちのものとして歌えるのはすごいなと思いますね。「月9」のような楽曲もできるし、バラードもいける。8位の「せつないや」も好きですね。去年の「リンドバーグ」後も、作家陣の選択もすごいし、バリエーションの付け方、曲調のバラけさせ方も上手い。

岡島:結成からここまでメンバーが伸びてくるまで、運営陣がしっかり待っていたというのを感じますね。エビ中と一緒でセンターを置かないというやり方。中でも水春さんはセンター的存在だけれど、それは絶対にしないという固い意志を感じます。11位の「さいしょのさいしょ」は、作詞がヤマモトショウさん、作曲が藤田卓也さん、編曲が(M)otocompoのDr.Usuiでスカが入ってる曲。12位の「can't go back summer」は、作詞がヤマモトショウさん、作曲が永塚健登さん、編曲をONIGAWARAが手がけたゆるいラップです。メジャーにいってもおかしくないですし、今年どうなるかって感じですよね。

桜エビ~ず「キラキラ」@ 新宿LOFT -New Album「octave」(8/21 release)-
桜エビ〜ず「ねぇ、ローファー。」@ 新宿LOFT -New Album「octave」(8/21 release)-
桜エビ〜ず「さいしょのさいしょ」@ 新宿LOFT -New Album「octave」(8/21 release)-

ハロプロ好きにもフィロのスを好きな人は多い(ピロスエ)

ーーフィロソフィーのダンス(以下、フィロのス)は3位に「ヒューリスティック・シティ」、9位に「シスター」が入りました。

宗像:「ヒューリスティック・シティ」は2018年12月の曲なんですよね。桜エビと逆で、2019年においてフィロのスの完全な新曲は「シスター」と「ダンス・オア・ダンス」の2曲しかなかった。

フィロソフィーのダンス/ヒューリスティック・シティ、ミュージック・ビデオ
フィロソフィーのダンス/シスター(ライブ・アット・スタジオ・コースト)

ピロスエ:既発曲のリミックスバージョンのリリースが多かったからね。

宗像:それでも入ってきているので、みんなが評価してるんだなと思いましたね。2019年4月にテレビ朝日でバラエティ番組『フィロのス亭』がスタートして、そこに注力した1年だったと思います。メジャーに行って認知度がさらに広がるのか、どう評価されることになるのか楽しみにしたいと思っています。そして、2月28日には1stオフィシャルブック『U Got The Look』が出ました。私もメンバー同士のクロストーク、ディスクレビューを執筆しています。

ピロスエ:僕もディスクレビューで参加して、改めて一通り聴きました。普段はハロプロを推しているんですけど、ハロプロ好きにもフィロのスを好きな人は多くて、共通するところが多いからそれも当然だなと思った。レビューでは、その作品から連想される洋邦のアルバムなどを挙げるパートもあって。アルバム『エクセルシオール』のレビューを書いたんですけど、それに付随するオススメとして太陽とシスコムーンのアルバムを挙げたんです。フィロのスは、太シスに近しいものを感じますね。ブラックミュージックを基調とした部分があって。

宗像:僕は「ラブ・バリエーション」のレビューで、モーニング娘。のアルバム『3rd -LOVEパラダイス-』収録の「DANCEするのだ!」を挙げました。ピロスエさんが以前言っていた「全然、モーニング娘。に似てねぇ」というコメントをそのまま使ってます。

ピロスエ:音楽性は近いけど、言うほど似てるとは思わないんだけどな……。

宗像:その辺の話も書いてるので。ぜひご購入ください。

関連記事