いきものがかり、『WE DO』で切り拓いたさらなる“歌”の可能性ーーアルバム収録曲を分析
昨年12月25日にリリースされた、いきものがかりのアルバム『WE DO』。いきものがかりといえば、約2年の活動休止期間(放牧)を経て、2018年11月より活動を再開。『WE DO』は、『FUN! FUN! FANFARE!』以来5年ぶり8枚目のオリジナルアルバムだ。彼らはリリース日の前月に結成20周年を迎えている。それほどのキャリアを積んだグループがこんなにもみずみずしい音楽を生み出すことができるのか、という意味でこのアルバムには驚かされた。
発売日には“WE DO宣言”という声明文を通じて、2020年4月から独立することを発表したいきものがかり。アルバムタイトルと同名の1曲目「WE DO」はグループの再スタートを象徴するアッパーチューンで、バンドもブラスもストリングスも全部盛りの鮮やかなサウンドが印象的だ。「WE DO」は1番だけしか登場しない、これまでのいきものがかりの曲にはない構成をした曲。その辺りについては、以前当サイトに掲載されたimdkm氏のコラムで解説されているため、そちらを読んでいただければと思う(いきものがかり、ソフトバンクCM曲「WE DO」で挑戦した“1番だけの曲” J-POP的構成を再考する)。この他にも特徴的な構成をした曲はある。例えば、「さよなら⻘春」は、邦楽でよく見られるAメロ→Bメロ→サビという構成はしておらず、かといって、ヴァース→コーラス形式でもない。〈今だけを生きて〉から始まるブロックを除き、ボーカルはずっと同じメロディを繰り返す構成だ。また、「あなたは」は3分15秒といきものがかりにしては尺の短い曲である。3分台の曲の存在は世の中的には珍しくないが、この曲はBPM66程度のスローバラード。この曲調でこの長さはあまり見ないように思う。
以上3曲のうち、「WE DO」、「さよなら⻘春」は作詞作曲が水野良樹で、「あなたは」は吉岡聖恵。水野は近年、外部アーティストへの楽曲提供を盛んに行っていて、Little Glee Monster、DAOKO、藍井エイル、横山だいすけ、和田アキ子、前川清……とその顔ぶれは多岐にわたる。また、インタビューや番組出演、SNSでの彼の発言からは、J-POPへの敬意と愛憎を読み取ることができる。水野の著書『いきものがたり』では、いきものがかりとして活動するにあたり、シーンの“真ん中”が不在であることに着目したこと、そこで王道のJ-POPを志向しようと考えたことなどが語られているが、今はそういうフェーズを終え、音楽の可能性を開拓すること、いきものがかりの表現領域を拡張することに意欲を燃やしているのかもしれない。一方、吉岡は、ヒットソングを次々と生み出してきた他2人に比べるとまだ手掛けた曲の数は少ない(とはいえ、本作における吉岡のソングライターとしての成長ぶりは凄まじく、その実力は2人に並びそうな勢いなのだが。後ほど詳述する)。だからこそ固定観念にとらわれることなく、自由に曲作りができるのかもしれない。