木村拓哉、音楽を通したクリエイティブな交歓 柴那典が感じたアルバム『Go with the Flow』の魅力

 木村拓哉が、初のオリジナルアルバム『Go with the Flow』を2020年1月8日に発売する。

 全13曲収録。とても興味深く、味わいのある一枚になっている。何がポイントかというと、「木村拓哉」というアイコンとその素顔の人間性の両方が、ありありと浮かび上がってくるということ。当たり前っちゃ当たり前なのだが、それが音楽的な魅力として形になっているということだ。

 楽曲を提供しているのは、稲葉浩志、小山田圭吾(コーネリアス)、川上洋平([ALEXANDROS])、LOVE PSYCHEDELICO、森山直太朗、槇原敬之、水野良樹(いきものがかり、HIROBA)、Uruといった面々だ。

 木村拓哉自身も「今回、ラジオ番組『Flow』に来てくださったアーティストの皆様、番組を聞いてくれているリスナーの皆様の後押しもあり、アルバムを出させていただく事になりました」とコメントしている通り、制作の背景になっているのは2018年8月からスタートしたラジオ番組『木村拓哉 Flow supported by GYAO!』(TOKYO FM・全国38局ネット)だろう。そこに登場したアーティストのゲストたちと音楽の話になり、楽曲提供の話も浮上し、そこから音楽活動のプロジェクトが現実味を帯びていったという。

 つまり、ラジオという最もリラックスした「リスナーと一対一の場所」で見せる木村拓哉の顔を知り、つながりを持つそれぞれのアーティストが「今の木村拓哉が歌うならば」という観点から作ったメロディ、言葉、サウンドが、アルバムの一つの核になっているわけである。

 その筆頭が、稲葉浩志が提供した「One and Only」。親交も深く、70年代〜80年代のアメリカンハードロックに憧れて育った木村拓哉と音楽的なルーツを共有する同士ということもあり、「キムタク」というアイコンのど真ん中の曲という印象だ。聴きどころは2分17秒くらい、ギターソロに入る直前のシャウト。「架空のライブハウス」を舞台にしたミュージックビデオも、この曲の役割を象徴している。

 2月に東京・大阪で開催されることが決まったライブに関しても、木村は「ようやく騒げる場所が決定致しました」とコメントしている。ライブのステージで「みんなで騒ぐ」というのが音楽活動のモチベーションの中心になっていることが伺える。水野良樹が作曲を、いしわたり淳治が作詞を担当した「NEW START」も、ライブでの熱狂がイメージできるような一曲だ。

 一方、LOVE PSYCHEDELICOの提供した「My Life」は、かなり挑戦的な曲。大陸的な乾いた響きのギターリフが主張する楽曲になっているのだが、変拍子を交えつつラップとリフがかなりテクニカルに絡み合うAメロは、とてもモダンなリズム解釈を踏まえたものになっている。

 アイコンとしての「キムタク」が背負うワイルドなロックスターのイメージの一方で、それぞれのアーティストが等身大の「木村拓哉」をイメージした親密な温かみを持った楽曲も、アルバムのもう一つの軸になっている。

 川上洋平の提供した「Leftovers」と「Your Song」は、どちらもメロディの温かみを前面に出したナンバーだ。特に「Your Song」は壮大な音風景をイメージさせるミドルバラード。木村拓哉の歌声が乗ることで、[ALEXANDROS]で見せる川上洋平の作風とはひと味違うものに仕上がっている。

 Uruが提供した「I wanna say I love you」「サンセットベンチ」も、ハートウォーミングなバラードナンバー。特にシンプルなピアノの響きと優しいメロディからなる「サンセットベンチ」は、アルバムのもう一つのハイライトになっている。この曲のミュージックビデオでは、サーフィンをしたり、浜辺やキャンピングカーでくつろいだりしている木村拓哉の姿が、ヴィンテージな色調の映像でおさめられている。「One and Only」のギラギラとした映像が「オンステージの“キムタク”」の象徴とするならば、「サンセットベンチ」のリラックスした姿は「“オフ”の木村拓哉」の象徴なのだろう。

 そして、アルバムの中でも最も異色、でありながら背景を知るといろいろと腑に落ちるのが、小山田圭吾が提供した「Flow」だろう。いかにもコーネリアスらしい、浮遊感あるエレクトロニックサウンドが展開されるこの曲。木村拓哉の歌声はフィーチャーされていない、インストゥルメンタルの曲だ。この曲の聴きどころは冒頭の数秒。ゴシゴシと何かをこするような音は、木村拓哉がサーフボードにWAXを塗る音なのだという。それがサンプリングされ、曲全体のモチーフになっている。これが1曲目に置かれていることが、いわば『Go with the Flow』というアルバム全体の世界観へのイントロダクションとして機能しているわけだ。

 ラストの13曲目に収録された「弱い僕だから(session)」も注目だろう。これは忌野清志郎が生前に木村に提供した楽曲の再録バージョン。1997年に発売されたSMAPのアルバム『SMAP 011 ス』に木村のソロ曲として収録されたナンバーだ。今回のアルバムでは、清志郎のソロ時代からの相方である三宅伸治と共にレコーディングが行われている。

 トップアーティストたちが「木村拓哉とは」というお題に、全力で応えた一枚。そして、アルバムのタイトルが示唆するように、木村拓哉自身がその流れ(=FLOW)に乗った一枚。そういう意味で、音楽を通したクリエイティブな交歓が結実している。その点が、このアルバムの魅力だと思う。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter

■リリース情報
『Go with the Flow』
2020年1月8日(水)発売
特設サイト

初回限定盤A(CD+豪華ブックレット仕様)価格:¥6,000+税
初回限定盤B(CD+DVD)特典DVD:One and Only(Music Video)、サンセットベンチ(Music Video)、Music Video Making 価格:¥4,000+税
通常盤(CDのみ)価格:¥3,000+税

<CD収録内容>
M1:Flow
作編曲:小山田圭吾

M2:One and Only
作詞:稲葉浩志 作曲編曲:多保孝一 ブラスアレンジ:村田陽一

M3:I wanna say I love you
作詞作曲:Uru 編曲:富樫春生

M4:Unique
作詞作曲編曲:槇原敬之

M5:New Start
作詞:いしわたり淳治 作曲:水野良樹 編曲:TAKAROT

M6:Leftovers
作詞作曲:川上洋平 編曲 川上洋平、佐瀬貴志、宗像仁志
(川上洋平from[ALEXANDROS])

M7:ローリングストーン
作詞:御徒町凧 作曲:森山直太朗 編曲:小名川高弘

M8:Speaking to world
作詞:前田甘露 作曲:Fredrik “Figge” Bostrom , 佐原康太 編曲:佐原康太

M9:サンセットベンチ
作詞作曲:Uru 編曲:富樫春生

M10:Your Song
作詞作曲:川上洋平 編曲:清水俊也
(川上洋平from[ALEXANDROS])

M11:My Life
作詞作曲:KUMI, NAOKI 編曲:LOVE PSYCHEDELICO

M12:A Piece Of My Life
作詞:西田恵美 作曲:川口進, Christofer Erixon 編曲:清水俊也

M13:弱い僕だから(session)
作詞・作曲:忌野清志郎 編曲:三宅伸治

■購入者限定プレミアムイベント
応募期間:2020年1月7日(火)10:00~2020年1月12日(日)23:59まで
※応募方法の詳細は「Go with the Flow購入者限定プレミアムイベント応募カード」にて

日程:2020年2月24日(月・祝)
場所:都内某所

■ライブ情報
『TAKUYA KIMURA Live Tour 2020  Go with the Flow』

東京
2月8日(土)国立代々木競技場 第一体育館 開演時間18:00
2月9日(日)国立代々木競技場 第一体育館 開演時間17:00
追加公演
2月11日(祝・火)国立代々木競技場 第一体育館 開演時間17:00

大阪
2月19日(水)大阪城ホール 開演時間18:00
2月20日(木)大阪城ホール 開演時間18:00

チケット料金:FC¥9,500(税込)・一般¥10,000(税込)
※申し込み詳細はJohnny’s netにて

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