カントリー・ガールズが全うしたアイドルとしての矜持 4人の卒業&グループ活動休止ライブで見せた満面の笑顔
「恋泥棒」ではじまったラストスパート。カントリー・ガールズ楽曲の世界では“男役”に扮することの多い小関の頬にキスする森戸に「待ってました!」とばかりの歓声が起こる。いつもであれば、「Good Boy Bad Girl」で見せる一幕を、あえて後半の〈あいつは恋泥棒 私が捕まえるんだから〉と息巻く同曲に持ってきたのは確信犯だ。〈パンパンパン パンパンパン パパン~〉ではじまる「リズムが呼んでいるぞ!」のリズム遊び、気品溢れる“山木嬢”、愛嬌を振り撒く“ハッピーちぃちゃん”こと森戸、元プロ野球選手の父・竜也(小関竜也)にホームランを捧げた小関、持ち前の関西ノリでやり切る船木、と各者各様のキャラクターで場内を沸かせると、トドメのキラーソング「浮気なハニーパイ(2015 カントリー・ガールズVer.)」を披露。場内は乱れ打つユーロビートに身を任せながら〈HERE WE GO HONEY PIE 1.2.3.4!〉の掛け声を合図に〈HEY HEY COME ON YO~ 本心でマシ~ンをぶちかませ!〉と、つんく♂ラップの大合唱が天井を突き抜けるほど響いた。
本編ラストは12月4日にリリースされたベストアルバム『カントリー・ガールズ大全集①』からつんく♂作詞作曲の新曲「ずっとずっと」。山木が研修生としてハロー!プロジェクトに入った際に「つんく♂さんの曲が歌いたいです!」と口にしてから5年強。そして、今回の卒業が決まったとき「卒業までにしたいこと」として、あらためて「つんく♂さんの曲が歌いたいです!」と願った彼女。こじらせた乙女心を綴った歌詞と、高音を上顎に這わしていくような音使いのメロディ。歯に衣着せぬつんく♂節が炸裂するこの楽曲を、最後の最後の晴れ舞台で歌いながら、ここぞとばかりに得も言われぬ得意気な彼女の表情が印象的だった。
会場いっぱいの「カントリー!」コールが鳴り響く中、それぞれが麗しいドレス姿で再びステージに登場した4人が歌ったのは、「気ままな片想い」。最初は空耳のような気がしていたのだが、あのコーラスとハモリの聴き馴染みのある歌声は、まごうことなき“ももち”の声だった。ミッツ・マングローブが20歳のときに原曲が作られたものの、「本当のアイドルが唄って初めて完成する」と長年あたためられてきたこの曲は、ミッツ本人が“本当のアイドル”として選んだももちが歌ったことによって完成した。そして今、ももちがアイドルを託した後輩たちの旅立ちという、新たな意味が生まれた楽曲になった。
「今の私たちの気持ちを正直に話しますので、少々厳しいことを言いますが――」
芸能界を引退するももちに向けられた曲「アイドル卒業注意事項」は、卒業する4人からファンへ贈る形にアレンジされて歌われた。“自分の力を試すために旅に出る”船木、“今日までの活動を糧に一般人として生きるのでそっとしておいて欲しい”という山木、“芸能活動は続けていく”と宣言した小関、そして、ハロー!プロジェクトに1人残る森戸は、「今後のカントリー・ガールズメンバーの情報をお伝えできるかもしれないので、気軽に会いに来て欲しい」と語った。それは、いつしかBerryz工房の活動停止の際、今後の進退が明確でないメンバーがいる中で、カントリー・ガールズとしてアイドルを続けていくことを決めていたももちが口にした言葉と同じだった。
さらに森戸の言葉はつづく。スクリーンに映し出されていたメッセージ「おぜちぃで遊びました」をあえて「おぜちぃでデートしました」と読み上げていたことが、“おぜちぃ(小関・森戸コンビの愛称)”の関係性を表しているようで微笑ましかった。加えて、カントリー・ガールズの森戸知沙希と、モーニング娘。’19の森戸知沙希の中の人が同じである、という衝撃的(?)な告白があり、どこか別れの悲しみに包まれていた場内を和ませた。ただ、本人の口から“モーニング娘。’19”の名前を発しなかったのは、カントリー・ガールズメンバーとしての誇りと、そんな自分を観に来てくれたファンへの最後の礼儀だったかもしれない。
本当に本当のラストソングは「VIVA!!薔薇色の人生」。ステージ上の無数の薔薇があしらわれた4本の支柱が4人を彩る中、明るい未来に向かって〈未来しかなくてごめんね!〉と高らかに歌い上げた。
「私たちの卒業を惜しんでくれた全てのみなさん、最後まで愛おしくってごめんね!」
こうして、山木梨沙、森戸知沙希、小関舞、船木結によるカントリー・ガールズは終わりを迎えた。
2017年、他グループをメインとする兼任メンバーと学業との両立を考えたメンバーに分かれた新体制は事実上の活動縮小だった。そして今年3月、梁川奈々美の卒業……、カントリー・ガールズの後期の活動は順調といえるものではなかったのかもしれない。しかしながら、良質な楽曲とアイドルとしての矜恃を守り続け、4人はカントリー・ガールズを思う存分に全うしたのだ。鳴り止まぬ「カントリー!」コールに何度も応えたカーテンコールで見せた、満面の笑顔の4人を見て、そう思った。あのとき〈まことの愛を教えてくれたひと〉、「明日からおもかげ」になる“せんぱい”に向けて〈いつかあなたよりもっと愛されるひとになります。見ていてくださいね。〉と誓った4人が、いま多くの人たちに愛されながら〈明日からはもう おもかげ〉になった。
■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログ/Twitter