Maison book girl、『海と宇宙の子供たち』で新境地 4人の歌声がもたらすポップな響きが最大の魅力に

 矢川葵、井上唯、和田輪、コショージメグミの4人組アイドルグループ・Maison book girl(以下、ブクガ)。プロデュースは、いずこねこのプロデュースや大森靖子との仕事、近年ではクマリデパートのプロデュースも手がけるサクライケンタ。変拍子や変則的なリズムがめまぐるしく飛び交い、ときにポエトリーリーディングまで飛び出す楽曲と、歌唱やダンスを通じた4人の表現が魅力のグループだ。

 ブクガの音楽性はしばしば「現音ポップ(=現代音楽+ポップス)」と形容される。具体的には、先述した特徴的なリズム構造や楽器の編成、そして短いリフの反復を主とした楽曲の構成には、ミニマリズムをはじめとした現代音楽からの影響が如実だ。実際、サクライもスティーヴ・ライヒのファンであることを公言している。

 一方で、エイトビートのノリを基調とした疾走感あふれるドラムはパンクやハードコアのようなダイナミズムを持っているし、メロディラインも一癖あるもののキャッチーだ。という具合に、現代音楽のみならず、ポストロック/マスロック的な響きの流麗さやポップパンクのような人懐こさも持ち合わせている。

 なにより、変則的なビートに錯綜するリフの乱れ打ちを4人の歌声が貫通することで、全体がにわかにポップに響き出す。このグループならではのケミストリーがブクガの音楽が持つ一番の魅力だ。

 ブクガは2015年の始動から5年、アルバムはインディ・メジャーあわせて4枚、シングルやEPも数多くリリースしてきた。音楽性は初期からユニークさ(変拍子、「現代音楽」的編成等々……)を確立しているが、歌唱に限れば最初はどちらかというと朴訥としていて、ときに拙さや危うさも感じるところがある。そんな歌唱がリフ同士が緻密に編み合わされたクールな楽曲と絶妙にマッチしていたことも事実ではある。

 そもそも、先述したような特性上、ブクガの楽曲は歌いこなすこと自体なかなか難しい。変則的な展開や譜割りが多い楽曲を4人で分担して歌い、かつライブのステージ上では激しい振り付けも伴う。困難さはリスナーの想像以上だろう。

 それが、近年の作品になればなるほど、発声も表現力もたしかなものになっている。経年による変化や、トレーニングによる技巧的な変化もさることながら、ブクガが表現したいこと、表現するべきことのビジョンをサクライもメンバーも高い水準で共有できているのだろうと思わせる。

 2019年11月に始動した、Amazon Prime Videoのオリジナルシリーズ「Pick Ups! -Maison book girl-」は、そんなグループの姿を生々しく映し出している。特にEPISODE 02で和田が見せる涙や、ステージ上でのMCには心動かされる。ほかにも、このエピソードではサクライがDAWのプロジェクトファイルを見せながら楽曲のつくりをつぶさに解説していて面白い(視聴はこちら)。

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