『Soda Resort Journey』インタビュー
Tsudio Studioが考える、“音楽”と“旅”に共通する感覚 影響を受けた作品も語る
80年代ポップスのエッセンスを最新のビートミュージックに乗せ、「架空の神戸」を表現した前作『Port Island』からおよそ1年。神戸在住のシンガーソングライター、Tsudio Studioによる全国デビューアルバム『Soda Resort Journey』がリリースされる。
今作のテーマは「架空の航空会社『Soda Resort Airline』で行く逃避行の旅」。故郷から遠く離れ、街の喧騒や突然のスコール、海辺のホテルといった異国情緒あふれる景色の中、様々な思いが交錯する12篇のリゾートストーリーが描かれている。サウンドプロダクションは前作の延長線上にありながら、フックの効いたメロディラインはより研ぎ澄まされ、随所に散りばめられたエキゾティックなフレーズが聴き手を「ここではない、どこか」へと誘う。さとうもかやMIRU(JaccaPoP)、ゆnovation、Crystal Colaなどゲスト陣も豪華だ。
ヴェイパーウェーブ~フューチャーファンクの文脈で語られることの多い彼のサウンドは、ともすれば現実社会から隔絶された「ユートピア」を描いていると思われがちだ。が、実際はそれだけではなく「今、ここ」と分かち難く結びついた世界なのだ、とインタビューの後半で明かしてくれたTsudio Studio。「ここではない、どこか」と「今、ここ」を架空のエアラインで行き来しながら、彼が描こうとした景色とは一体どのようなものなのだろうか。本人に聞いた。(黒田隆憲)
他の人より音楽のことが好きなのかもしれない
ーーもともとはどんなきっかけで音楽に目覚めたのですか?
Tsudio Studio:僕は今35歳なのですが、僕らが小学生くらいの頃はCDがイケイケの時代で。Mr.ChildrenやGLAYがヒットを飛ばし、クラスでも音楽の話題で持ちきりだったんですよ。当時、家の近くにレンタルCD屋があって、当日返却したら1枚100円になるのでまとめてレンタルとかしてました。その中には洋楽のタイトルも結構置いてあって、映画がすごく好きだったからビジュアルの面白いCDを片っ端から借りていたんですよね。Beckの『Odelay』とか。
ーー当時の洋楽は、クリス・カニンガムやスパイク・ジョーンズらが手掛けたPVも面白かったですよね。
Tsudio Studio:そうなんです。中学に上がる頃、家ではケーブルテレビを導入してスペースシャワーTVやMTVなどを観るようになって。そこで流れていたビョークなどのPVがとにかくカッコ良くて。気がついたら洋楽にも夢中になっていました。その頃は友人たちと、メロコアのバンドをやってたんですよ。ベース担当で、Green Dayとかコピーしてましたね。ただ、Green Dayで一番好きなのは、「Good Riddance (Time Of Your Life) 」というアコースティックナンバーなんですけど(笑)。
ーー宅録にハマるようになったのは?
Tsudio Studio:バンドで録音をしてみたくなり、メンバーとお金を出し合ってカセットMTRを手に入れたんです。当時はカバーばかりやってたんですけど、だんだんと「オリジナルを作らないと意味ないな」と思うようになってきて。ただ、他のメンバーはそこまで熱を入れて活動してなかったんです。他にもゲームなど娯楽はたくさんあって、バンドもそのうちの一つっていう感じだったんですよね。そこで僕は、他の人より音楽のことが好きなのかもしれないことに気付いて。
ーー他のメンバーとの間に温度差があったと。
Tsudio Studio:なので、高校生になる頃にはカセットMTRも僕が独占していて(笑)、それにサンプラーを組み合わせて宅録などしていました。Radioheadにハマったのもその頃で、そこからAutechreやAphex Twinのような、いわゆるエレクトロニカ系の音楽に傾倒していきました。
ーーバンドではベースをやっていたとおっしゃいましたが、例えば和声の仕組みや、グルーヴの出し方など、ベースをやっていたことが今の音楽活動にも生かされていると感じる部分はありますか?
Tsudio Studio:言われてみれば、確かにそれはありますね。自分は成り行きでベースを始めたんですけど、そのおかげで楽曲を俯瞰したり、その仕組みに興味を持ったりするようになったのかも。
ーー以前のインタビュー(indiegrabインタビュー)ではプリンスの『Sign O' The Times』を特別なアルバムとして挙げていますよね。
Tsudio Studio:プリンスはどのアルバムも好きなんですけど、『Sign O' The Times』はまずジャケットが好きですね。ドラムセットや楽器が乱雑においてあって、プリンスがちょっとピンボケで前方に写っているんですけど、背後にある全てを背負って前進してやるという、意思みたいなものを感じるんですよね。楽曲では「The Ballad of Dorothy Parker」がめちゃくちゃ好き。美しくて、でもリズムにはヨレた面白さがあって。空間の使い方にしても「音をこんなに削ぎ落としていいんだ!」と思いましたね。それまで聴いていた音楽が「とにかく空間を埋めて音圧も稼ぐ」みたいな曲ばかりだったので、その真逆の発想が新鮮だったんです。
ーーなるほど。エレクトロニカ~ビートミュージックへの傾倒からフライング・ロータスやハドソン・モホークなどを掘る一方で、山下達郎や竹内まりやなど80年代の音楽に惹かれていったのはどんな理由からだったのでしょうか。
Tsudio Studio:親の影響はあると思います。一人っ子で、家族で遠出とかした時に車の後部座席でずっと聴いてたのが山下達郎や竹内まりや、ボビー・コールドウェルあたりの音楽だったので、それが刷り込まれているんでしょうね。」
ーーヴェイパーウェーブやフューチャーファンクなどを聴くようになったのもその流れ?
Tsudio Studio:そうです。80年代の歌モノと、現代の打ち込みがあんなにスムーズに気持ちよく混ざることをフューチャーファンクに教えてもらったというか。「ああ、なるほど!」と思ったんですよね。
ーーヒップホップも好きですか? 様々な素材を組み合わせ、文脈を解体して再構築していくという意味ではヴェイパーウェーブとヒップホップって、方法論的にかなり近いところにあるのかなと思うのですが。
Tsudio Studio:そうなんですよ。だからヒップホップってめちゃくちゃ偉大だなと思います。個人的にはゴリゴリのマッチョではない、The Pharcydeのようなメロウなヒップホップが好きですね。あとは、DJシャドウをはじめ、<ANTICON>周辺のインストグループとか。考えてみれば、エレクトロニカでもAutechreやBoards of Canadaはヒップホップの影響を間違いなく受けているし、フライローやハドソン・モホークなんかもJ・ディラの影響下やし。あと、今思い出したんですけどスチャダラパーの『WILD FANCY ALLIANCE』がメチャメチャ好きで、今作『Soda Resort Journey』のテーマが「旅」なのも、このアルバムに入っている「彼方からの手紙」という曲の影響を受けているのかもしれないです。
ーー前作『Port Island』を、島根のネットレーベル<Local Visions>からリリースすることになった経緯は?
Tsudio Studio:ヴェイパーウェーブやフューチャーファンクと出会ったのを機に自分の音楽性についても色々模索していく中、beef fantasyさんの「VIRTUA BEACH」と、パソコン音楽クラブさんの「SUN DOG」をマッシュアップするアイデアが浮かんできて。さらにサックスを加えてみたら、この感じで自分の曲も作りたいという楽曲になったんです。この方法論を推し進めつつ、以前から考えていた「架空の神戸」をテーマにしたアルバムの構想を結びつけたのが、前作『Port Island』でした。
ただ、アルバムの構想が固まったのはいいけど、それをどうリリースしたらいいか分からなくて。<Local Visions>は、ヴェイパーウェーブのコンピレーションやAOTQさんのアルバムぐらいしかリリースがまだない状態だったんですけど、捨てアカウントさんという主宰者のセンスやアートワークにめちゃくちゃ共感するものがあって。「ここから(自分の作品を)出せたらいいな」と思ってたんです。そしたら捨てアカさんの方から「うちからリリースしませんか?」と連絡をしてくださったんですよね。自分がリリースしたいと思っているなんて捨て垢さんは知らないはずなので、すごく不思議でありがたい体験でした。
ーーSoundCloudに上げていた音源を聴いてくれたのですね。
Tsudio Studio:そうみたいなんです。それまでも相互フォローはしていて、しょーもないツイートをいいねし合ったりはしていたんですけど(笑)。「音楽も聴いてくれてたんや!」と思って嬉しかったですね。見つけていただいて、リリース出来てよかったです。
ちなみにアートワークを手掛けてくれた台湾のイラストレーター・低級失誤(Saitemiss)さんは<Local Visions>のロゴを作っていた人で、僕はそのロゴを見た瞬間に「ここで出したい!」と思ったくらい、そのセンスに惹かれたんです。なので、自分のアルバムでもぜひやって欲しくて頼みました。このジャケットを見て興味を持ってくれた人も結構いたみたいなんですよね。僕もジャケ買いをめちゃくちゃする人間なので、それもすごく嬉しかったです。