ROTH BART BARON、崎山蒼志、高野寛、原田知世……柴那典が選ぶ「新しい日本語のフォークロア」
今回のキュレーションは「新しい日本語のフォークロア」というのがテーマ。確かなぬくもりを感じさせる、ルーツに根ざした、けれど今までにない感覚を味あわせてくれると感じるアーティストたちの作品を選びました。
ROTH BART BARON『けものたちのなまえ』
三船雅也と中原鉄也による2人組、ROTH BART BARONによる4枚目のアルバム。僕は彼らのことを、今の日本における新しいフォークロアのあり方を打ち出してきたグループだとBon Iverやスフィアン・スティーヴンスが北米大陸にて追求してきたような「土地に根付いた自分たちの物語を再編する試み」に通じることを、日本語で歌っていると思う。だから、サウンドはとてもシンフォニックだし、歌はどこか童謡のようなところがあるけれど、その核心には脱国家的な反骨精神があると思っている。自主制作盤『化け物山と合唱団』の頃から、それは変わっていない。
いきなりちょっと小難しいことを書いたけれど、新作はリード曲「けもののなまえ(feat.HANA)」がとてもいい。歌詞には〈毛皮を脱ぎ捨てても/僕らはまだ/けもののまま〉とある。こんな言葉を13歳の少女HANAがあどけない声で歌うことで、彼らの楽曲が持つ神秘性が際立って聴こえてくる。
のろしレコード『OOPTH』
のろしレコードとは、松井文、夜久一、折坂悠太という3名のシンガーソングライターによって立ち上げられた音楽レーベル、およびユニット。2015年の初音源に続くアルバム『OOPTH』は3人が楽曲を持ち寄り作られた一枚だ。
折坂悠太も、新しい日本語の歌のあり方を更新してきたシンガーソングライターの一人と言っていいだろう。昨年の傑作アルバム『平成』を経て、今年に発表した「朝顔」(フジテレビ系月9ドラマ『監察医 朝顔』主題歌)で広く名を知らしめた彼。その魅力は、各国のルーツミュージックに根ざしつつ、しかし誰にも似ていない歌声の響かせ方にある。松井文、夜久一という同世代のシンガーソングライターも、その価値観を共有している。
折坂、松井、夜久の3人に共通するのは、いわゆる70年代の四畳半フォークから通じるニューミュージック~J-POP的なフォークソングではなく、今の時代だからこその新しい「フォークロア=民族伝承」のような歌の表現領域を立ち上げようとしているところ。そういう意味では、たとえば、イ・ランや柴田聡子にも、そして上の世代では七尾旅人にも通じるようなスタンスと言っていい。
『OOPTH』の中でも折坂悠太が書き下ろした「コールドスリープ」は、牧歌的な響きとSF的な宇宙がつながる壮大なパースペクティブを持っている。
崎山蒼志『並む踊り』
2002年生まれ、浜松市在住のシンガーソングライター、崎山蒼志の2ndアルバム。昨年12月にリリースされた『いつかみた国』も素晴らしい作品だったが、そこから目覚ましい成長を遂げた1枚になっている。
2018年5月、AbemaTV『日村がゆく』の「高校生フォークソングGP」に出演したことをきっかけに、またたく間に知名度を上げた彼。卓越したギタープレイと独特の言語感覚を活かした弾き語りのスタイルで楽曲制作を続けてきたが、今作では、君島大空、長谷川白紙、諭吉佳作/menという3人のミュージシャンとのコラボレーションが実現している。崎山蒼志にとって互いに敬愛する関係性でもある三者は、既存のポップスや歌モノの枠組みを溶かしてしまうような「異能」のクリエイティビティの持ち主だ。その才能が1枚のアルバムの中で不思議な結びつきを形にしている。
「感丘 (with 長谷川白紙)」は、同時期にリリースされた長谷川白紙『エアにに』にも通じ合う、奔流のような展開と調性から逸脱するメロディを持つ曲。「むげん・ (with 諭吉佳作/men)」は、同世代の2人が溶け合うような男女のハーモニーを聴かせる曲。
どんどん感性を拡張しているさまに、とてもワクワクする。