「SUBURBIA」インタビュー

BRIAN SHINSEKAIが改めて考える、音楽の魅力「色んな境界線の向こう側に連れて行ってくれる」

「ここじゃないところに行きたい」 

ーーでは、最新曲「SUBURBIA」は、どんなふうに生まれた曲だったんでしょう?

BRIAN SHINSEKAI:この曲は、基本的には今年に入ってリリースしている楽曲の雰囲気を引き継いでいる曲ですね。でも、「ATTACHMENT」の頃は、まだ『Entrée』からの流れを汲んでいた部分があって、音色にしても、(『Entrée』の収録曲)「トゥナイト」に近いものにしたりしていて。そこから、「SUBURBIA」はもっとビートが緩いものにしたいと思って作りはじめました。色んなアーティストのライブを観る中で、緩いビートの中で踊りながら、歌詞が聞こえてくるような瞬間の享楽的な雰囲気というか、押せ押せのビートでガンガンに乗っていないのにすっと霧が晴れていくような感覚をいいなと思うことが多くなっていたんですよ。

ーーそれで、「SUBURBIA」はレゲエやダンスホールのビートを取り入れたものになっているんですね。

BRIAN SHINSEKAI:そうですね。でも実際、最近のライブでは、お客さんもこの曲を一番ノリノリで聴いてくれています。歌詞もそんなに明るいものではないですけど、こういうメロディで、こういうテンポ感だからこそ、芯を得たことを伝えられるようにしたいと思いました。僕の人生観には、こういうビートの方が合っているのかもしれないですね。飄々と生きるのが好きなのかな、と(笑)。

ーーレゲエやダンスホールの要素は、一昨年頃からアメリカのメインストリームのポップミュージックでもまた取り入れられることが多くなっているものでもあると思います。

BRIAN SHINSEKAI:はい。もちろんそういう音楽も聴いていますし、他にも、タイラー・ザ・クリエイターの新作も、レゲエやダンスホールではないですが、以前よりもメロディアスになって、コード進行もサイケデリックロックっぽいものになっていて。あの作品にもグッときました。あとは、フランスのストロマエの、ラテンっぽいノリの曲も大好きなんですよ。もとを辿れば、セルジュ・ゲンスブールも好きなので、生き方としても、僕はそういうムードが好きなんだと思います。自然にノレて、緩い雰囲気もあるんだけれども、歌詞では実は鋭いことや深いことを言っているもの。その雰囲気を上手く出せるものが、「SUBURBIA」のサウンドだったのかな、と思います。それから、この曲は特に、サビでシンガロングできるようなものにしています。僕自身も、サビで歌えるダンスミュージックに感情移入する経験があって、「あの人もこういう悩みを抱えているのかな」と、Pet Shop Boysを聴きながら考えたりしていたので。とはいえ、この曲には他にも色んな要素が入っていて、ニューウェイブっぽさもありますし、グラムロック的な……特にグラム期のデヴィッド・ボウイ的な雰囲気もありますし、同時に最近のアメリカのダンスホールを取り入れたポップミュージックの要素もあって。その全部を詰め込んだ楽曲になったと思っています。

BRIAN SHINSEKAI - SUBURBIA (Official Video)

ーー歌詞の「SUBURBIA=郊外」というモチーフは、どんなふうに想像したんですか?

BRIAN SHINSEKAI:もともと、Pet Shop Boysの「Suburbia」もそうですし、デヴィッド・ボウイの「Buddha of Suburbia」もそうで、自分にとっては曲名としても馴染んできた言葉なんですけど、僕は昔から、郊外というか、「ここじゃないところに行きたい」という気持ちがずっとあって。もともと音楽をはじめたのも、今いる空間に打ち解けられないところから、音楽を使って「新しい場所に行きたい」という気持ちがあったからなんです。音楽って、そうやって新しい場所に連れて行ってくれるものだと思いますし、何十年前に亡くなったアーティストでも、その音楽を聴けば繋がれるものでもありますよね。それって、ここで聴いていない音楽、たとえば、黄泉の国で聴いているような音楽、という感覚もあると思っていて。そんなふうに、色んな境界線の向こう側に連れて行ってくれることって、「音楽の魅力だよな」と最近よく思っていたので、この曲では、「郊外の外に行こう」ということを歌ってみました。

ーー確かに、タイトルは「SUBURBIA」ですが、実際に歌詞で歌われているのは「サバービアの向こうで踊ろう」ということですね。

BRIAN SHINSEKAI:そうなんですよ。結局、郊外も想像できる場所だと思うんですが、「そうじゃないところに行こうよ」という曲になっているんです。

ーーBRIANさんの中では、この曲に出てくる郊外に、特定の景色が想像できるのでしょうか? 聴かせてもらって、色々な人種が混ざっている、ボーダーレスな風景を想像しました。

BRIAN SHINSEKAI:確かに、色んな人種が混ざっているような場所ではあるのかもしれないですね。お面とか、色々な民族的な衣装もあって……各国の民族的なものが溢れているような場所なのかもしれません。『Entrée』も、色んな国に行くと同時に、時代的にも貴族の時代から未来的な時代まで、様々な時代が出てくるような作品だったと思いますし。言われてみれば、僕の原風景というのは、もともとそういう景色なんですよ。

ーー他に歌詞で工夫したところはありますか?

BRIAN SHINSEKAI:「SUBURBIA」には〈令和に何を残すのか/どこか遠くもっと遠く/自由な場所で荷物おろそう〉という歌詞が出てきますけど、この部分は、結構悩んで書いた箇所でした。今回の「SUBURBIA」では、僕の中にある旅の一例を歌詞にしていったんですけど、それだけでは終わらせたくなかったので、今の自分がリアルに思っていることも入れようと思ったんです。この部分がないと、「旅路の果てには何があるんだろう?」という、旅の目的がないまま曲が終わるような気がして、それだとふわっとした曲になると思ったんです。人って、色んな十字架や色んな重荷を背負って生きていますよね。それはたとえば、職とか、部下とか、人によって色々で、そういうものを背負いながら日々旅をしていて。そのとき、音楽はそれをちょっと軽くしてくれるような存在でもあると思うんです。音楽を聴いたからといって持っているものは変わらないけれど、気持ちはちょっと軽くしてくれる。それは、ライブにも言えることだと思っているんです。僕はワンマンライブをできるときには、その2時間の中では最後にみんなが束の間は背負っている荷物を下ろせるようなライブをしたいと思っているので。それで、曲の中に未来に向けてのことを書き残しておこう、と。

ーーなるほど。歌詞の内容も相まって、BRIANさんのこれからに向けても、また新たにスタートを切っていくような雰囲気の曲になっていると感じました。

BRIAN SHINSEKAI:これまで、僕はスタートの切り方をよく分かっていなかったんですよ。たとえるなら、(ゲームタイトルの)『バイオハザード』で同じところでくるくる回っていた人が、やっと進む方向を分かった、という感覚というか(笑)。『Entrée』のときは、「自分が思っていることを素直に出していいのかな?」と思っていた部分もあったんですが、その後実際に自分の興味をそのまま出して曲を作ってみたら、手応えを感じはじめて、いいタイミングで『HELLO WORLD』の劇伴の話もいただいて……。そんなふうに、ちょっとずつ進んできた旅の中で感じている僕の気持ちと、聴いてくれる人たちの気持ちが、シンクロしてくれれば嬉しいな、と思っています。「SUBURBIA」の歌詞は、無理やり届かせようという歌詞ではないので、聴いてくれた人たちが、自然とシンクロしてくれればいいな、と。前は、もっとガチガチに考えて、がんじがらめになってしまっていたんですよ。でも、「WAIT」以降の歌詞は、そんなふうに変わってきた気がします。あくまで自分の歌詞を書いて、それに共感してくれたら、それでいいのかな、という感覚で。

ーーそれは次の作品に向かううえでも、大きな気持ちの変化なのかもしれませんね。

BRIAN SHINSEKAI:そうですね。次の作品は、僕の音楽観や人生観が、世間のトレンドに左右されるのではなくて、BRIAN SHINSEKAIという自分自身を軸にした作品にしたいと思っています。周りに合わせて自分らしさを失ってしまうのではなくて、何も考えずに自分らしいものを作って、その結果時代がこっちに来てくれたらいいな、と。そういうふうにした方が、何故か色んな人たちが、「こっちの方が絶対にいい」と言ってくれるんですよ。そういう意味でも、次の作品はナチュラルに作ろうかな、と思っています。考えすぎない方が、僕らしいものになりますし、その方が受け入れてもらえるのかな、と思うので。たとえば今回も、イントロの「ハァイヤ~」という部分は、昔なら、「こういうものは流行ってないし……」と考えていたはずなんですよ。でも、今回はデモの時点で自然と入れてしまっていて、「これは自分だからこそ出てきたものなんだな」と感じました。次の作品は、そういう要素をガンガン入れていくようなものにしていこうと思っています。

(取材・文=杉山仁/撮影=三橋優美子)

「SUBURBIA」

■リリース情報
「SUBURBIA」
発売:2019年9月18日(水)
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「TAIWAN」
発売:2019年8月7日(水)
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「ATTACHMENT」
発売:2019年6月26日(水)
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「WAIT」
発売:2019年5月29日(水)
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オフィシャルサイト

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