indigo la Endは不安を美しい音楽に変えていくーー初の日比谷野音ワンマンを見て

 野音でのライブは、indigo la Endの念願だった。ここ7年間雨が降っていないという6月30日、2019年は、雨。会場にはレインコートに身を包んだ観客が開演の時を待っていた。

 川谷絵音(Vo/Gt)が「昔の曲も万遍なくやろうというツアーだった」と語り、序盤で『あの街レコード』から「夜明けの街でサヨナラを」「billion billion」と懐かしい2曲を披露した。コートのフードをかぶると、髪はくずれ、ステージだけが視界に入り、こもった音が耳に届く。バンドと一対一でいるような感覚は、indigo la Endの曲とファンの向き合い方そのもののような気がした。

 「雨の中待たせるのも良くないんで、僕らばーってやっていきますから」と気遣いながら、9曲を続けて演奏。『夜に魔法をかけられて』から「彼女の相談」「スウェル」とインディーズ時代の曲も届けられ、〈あれが最後の贈り空 綺麗な色してたよね〉という歌詞を、空を見上げて聴いた。「忘れて花束」では川谷と長田カーティス(Gt)のギターに、えつこ(Cho/Piano)とささみお(Cho)のコーラスが重なりあい、これがindigo la Endの美しさだ、と息をのむ。 

 本公演は、ワンマンツアー『街路樹にて』の追加公演。『abuku』という色気ある題名がつけられ、「見せかけのラブソング」では泡(あぶく)のようなシャボン玉が空に放たれた。結成時から唯一変わらないメンバーである川谷と長田が「インディゴラブストーリー」で向かいあってギターを鳴らす。川谷が音楽を辞めようとした時、「僕は君の音楽が好きだから」と長田が引き止めたエピソードを思い出した。

 14曲を一気に演奏した後、「野外なんで盛り上がる曲をやろうと思います」と「名もなきハッピーエンド」「瞳に映らない」など、MV集のような4曲を披露。この頃にはすっかり雨も止んでいた。盛り上がる曲を一カ所に集約させたことで、身体を動かし楽しむ時間と、じっくり曲に浸る時間の両方を味わえた。

 そして本編ラスト、ツアータイトルの由来である「幸せな街路樹」である。〈「雨のにおいがしたって」〉という歌詞は、街路樹に囲まれた雨上がりの野音で歌われることが、最初から決まっていたかのようだ。

 本ツアーは、「幸せな街路樹」を巡る旅だった。川谷は各所で「他の曲は客観的に見れるようになったのに、この曲だけは解決できていない」と打ち明け、横浜公演では「この曲の歌詞は今読んでもすごい苦しくなる」と吐露。結局最後の野音でも「7年前と気持ちが変わらなかった」と告白した。ツアーを最後にこの曲を封印することも考えたが、むしろ「満たされたら僕は曲を作らなくなる。この曲があるから、曲がつくり続けられる」とツアーを通してポジティブになれたという。

 彼らの曲は、まさに“満たされない想い”を歌うものが多い。好きな人との気持ちのずれ、女性目線の満たされぬ想い。〈君が好きだってこと以外は この際どうだっていい〉(「藍色好きさ」)と恋心を素直に表現する歌が聞かれた時期もあった。しかし最近は、嘆くどころか、満たされない方が良いとする歌詞が増えたように思う。

 〈距離が伸びるほど悪くない〉と 〈愛情ごっこで手を打とう〉としたり(「ほころびごっこ」)、 〈視野の狭い愛情〉しか送れず 〈完成した瞬間冷めてった〉りする(「はにかんでしまった夏」)。今のindigo la Endは“満たされない想い”のもつ苦しさと美しさ、両方を感じて音楽を紡いでいるような気がする。 

 アンコールでは、野音で一番やりたかったという「夏夜のマジック」を心地よく響かせた。その後サプライズで、新曲「結び様」を初披露。〈結んでもないから 僕はもう君を 愛さないことにするよ この歌にだけ残す〉と本心を仕舞いこむ。〈起承転結 三文字目半の糸〉と歌われる「蒼糸」のように、〈糸は吉に絡ま〉って結ばれることはない。“満たされない想い”が、また一つの曲となった。

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