GRAPEVINEが続ける“一期一会”の特別なステージ 『ALL THE LIGHT』ツアー最終公演レポ
リスナーに媚びることなく、もちろん音楽シーンの流行に寄り添うこともなく、自分たちが良いと感じる音楽を追求し続け、デビュー20周年を超えてからも右肩上がりの活動を継続しているGRAPEVINE。そのあり方とスタンスは、若い世代のバンドの憧れだ。GRAPEVINEが好きなことを追求し、それが支持され続けているのは、身も蓋もない言い方になってしまうが、楽曲の質が高く、しかもそれをライブのたびにしっかりアップデートしているからに他ならない。ニューアルバム『ALL THE LIGHT』を携えたツアーの最終公演でも彼らは、この時間、この場所でしか体感できないステージを繰り広げ、超満員のオーディエンスの心と身体を揺さぶっていた。
ライブのスタートは、アルバム『ALL THE LIGHT』収録曲「こぼれる」だった。プロデューサーのホッピー神山のリクエストを受けて、エレキギターの弾き語りをテーマに制作されたこの曲を、田中和将(Vo&Gt)、西川弘剛(Gt)、亀井亨(Dr)の3人だけで演奏。青みがかったブルースが感じられる田中のギターと歌に、西川のエフェクティブなフレーズ、亀井のパーカッションが加わり、アンビエントな雰囲気が広がる。さらに金戸覚(Ba)、高野勲(Key)が登場、いつもの5人編成でアルバムのリード曲「Alright」、そして「こんばんは! お台場! ただいま!」(田中)と韻を踏んだ挨拶とともに、2006年のシングル「FLY」を演奏し、華やかなムードを演出する。
「最終日だからといって特別なこともなく、ひたすら心を込めて演奏しますので。いちばん気楽なスタイルで、心をあちこちに飛ばしながら楽しんでいただけたらと。あ、いい演奏をしてたら反応よろしくお願いします」(田中)といういつも通りのMCの後も、新旧の楽曲を織り交ぜながらライブは進行した。「Reason」のアウトロでは、3分以上に渡って(ほぼ)ワンコードだけで押し通すセッションを披露。さらに壮大なシンセサウンドを取り入れた「雪解け」では、〈虹を見たのかい〉という美しいフレーズと西川の浮遊感のあるギターが絡み合い、幻想的なライティングによる「Asteroids」ではサイケデリックな音像が酩酊感を誘う。それぞれの曲に特徴的なサウンドデザインが施され、(田中のMCが示唆する通り)聴いているうちに自分のなかの感情や思いがいろいろな方向に飛ばされるのがわかる。また、西川の作曲による「リトル・ガール・トリートメント」(2000年のアルバム『Here』収録)などレアな楽曲も心に残った。GRAPEVINEのツアーは“決まったセットリストを徐々に練り上げていく”というものではなく、毎回のように演奏する楽曲を変え、アレンジに工夫を凝らし、“その日だけのライブ”を積み上げながら行われる。だからこそ彼らのライブは、何度見ても新鮮で、そのたびに新たな発見があるのだ。(もちろん、メンバー自身が“同じことを続けていると飽きる”という理由もあるとは思うが)
ライブ中盤ではアルバム『ALL THE LIGHT』の楽曲をまとめて披露。音源で使用されていたシンセベースを生演奏することで、濃密でしなやかなバンドグルーヴを表出させた「ミチバシリ」(〈行かば我 筆を折るまでは/行く手を阻むものなど在り得ない〉を叫ぶように歌うシーンも印象的だった)、シーケンスのリズム音、木管楽器のようなシンセ、テルミンなどを配した「弁天」と独創的なアイデアを取り入れた楽曲が続く。そして、アカペラ楽曲「開花」は田中がひとりでパフォーマンスした。冒頭はQueenの「Bohemian Rhapsody」の“ひとりカバー”。ボーカルにエフェクトをかけ、リアルタイムで多重コーラスを表現するシーンはきわめて新鮮だった。ホッピー神山のプロデュースによって、ふだん以上に様々な楽器の音色が取り入れたアルバム『ALL THE LIGHT』の楽曲が、ツアーのなかで再構築され、肉体的な音像を獲得していたことも印象的だった。
軽やかなブルースの風が吹いてくるようなアンサンブル、〈苦い過去を引っ括めて/何もかも連れて行こう〉というフレーズが心地いい「Era」、骨太なバンドグルーヴが響き渡った「I must be high」、しなやかなビートと解放感のあるメロディ、毒のある歌詞がひとつになった「棘に毒」、楽曲の途中にLed Zeppelinの「Rock and Roll」のフレーズを挿入した「God only knows」などによって、フロアの熱気をゆったりと持ち上げる。本編最後は代表曲のひとつ「光について」、そして、アルバム『ALL THE LIGHT』の支柱とも言える「すべてのありふれた光」。かつては遠い向こうにあった“光”が、いまは手に届きそうな場所にあるーーこの2曲が描き出す美しい物語は、今回のツアーの醍醐味だったと思う。
アンコールは2000年リリースのシングル「Reverb」から。さらに「少年」「smalltown,superhero」と少年期の記憶をモチーフにした楽曲を続け、叙情的なムードが広がる。最後は「Arma」。〈物語は終わりじゃないさ/全てを抱えて行く〉というフレーズが響き、ライブはエンディングを迎えた。
ツアー初日であっても最終日であってもまったく変わりなく、GRAPEVINEは“いつも通り、その日だけの特別なライブ”を続けている。9月に大阪、東京、愛知で行われるホールツアー『GRAPEVINE FALL TOUR』でも彼らは、その時間、その場所でしか体験することができない、一期一会のステージを見せてくれるはずだ。
(文=森朋之/写真=岡田貴之)