金子厚武の「アーティストの可能性を広げるサポートミュージシャン」
くるりというバンドの特異な魅力 サポートミュージシャン野崎泰弘(Key)&松本大樹(Gt)が語る
現在のくるりを支える重要な2人のプレイヤー、それがギターの松本大樹と、キーボードの野崎泰弘である。京都出身で特に岸田繁(Vo/Gt)とは縁の深い松本と、Superflyをはじめとした多くのアーティストをサポートしてきた野崎は、くるりが3人体制になって以降、2014年から2015年の間にバンドと深く関わるようになり、現在ではツアーのレギュラーメンバーであるだけでなく、プリプロにも参加するなど、完全にチームの一員となっている。ドラムにクリフ・アーモンドを迎えて行われた『ソングライン』のリリースツアー『列島Zeppェリン』を終えたばかりの二人に、くるりというバンドの特異な魅力について話を聞いた。(金子厚武)
「くるりは曲ごとにテンションも違う」
ーーまずは二人がくるりに参加するようになった経緯を教えてください。
松本大樹(以下、松本):僕は京都出身なんですが、母親が岸田さんの小学校の担任の先生だったんですよ。記憶にはないんですけど、家に遊びに来たこともあったらしくて、くるりが世に出たときは「地元のすごい先輩が世に出た」みたいな感じでした。僕自身は高校の頃からバンドをやっていて、26歳で東京に出てきたんですが、僕が音楽やってることは知ってくださってて、ときどきライブに伺っていました。2014年に「サポートを探してる」って声をかけていただいて、セッションをしたのがきっかけですね。
ーー音楽的には、どんなバックグラウンドが大きいのでしょうか?
松本:入口は親父が好きだったThe Venturesで、家に楽器があったので、兄がドラム、僕はベースをやらされたんです。親父がギターで、一緒に演奏したかったのかな。でも、すぐに「ギターがいい」ってなって、文化祭でBOØWYのコピーをやったりしました。高校を卒業して、すぐに組んだ男5人のヘヴィなロックバンドを4年間くらいやり、そのバンドが解散してから上京しました。
ーー「ヘヴィなロックバンド」というのは、ハードロックとかヘヴィメタル?
松本:そうですね。そっちに流れて行って……ひたすら必死に練習してました(笑)。
ーー野崎さんはどういう経緯だったのでしょうか?
野崎泰弘(以下、野崎):僕は20代のときにサポートキーボーディストという存在を知ってからずっと憧れていて、アマチュアでバンドを何個か抱えてた中で、30歳のときにSuperflyのサポートをやらせていただいて。それをきっかけにいろんな人と出会い、様々な方のサポートをやらせていただいたことで、今がある感じです。Superflyはお世話になってた方のつてで、たまたま話が来て、当時まだ車で全国を回ってるバンドだったから、「免許を持ってるキーボードいないか?」っていう(笑)。でもそのおかげで、最初の一歩を踏み出せたんです。
ーー松本さんと同じように、音楽的なバックグラウンドも教えてください。
野崎:もともとはクラシックで、その後にハマったのがソウルとかファンクのブラックミュージックだったので、ロックは全然聴いてなかったんですよ。この間の『列島Zeppェリン』でLed Zeppelinのカバーをやったんですけど、この年で初めてLed Zeppelinをちゃんと聴きました(笑)。でも、前に酔っ払った岸田さんに「くるりはロックバンドなんやけど、ロックをあんまり通ってないやつの方がいいときがある」って言われたんです。「クリフもロック通ってないし」って。僕が落ち込んでたから励ましてくれたのかもしれないですけど(笑)、それはすごく覚えてますね。
ーーくるりというバンドの魅力、独特な部分をどのように感じていますか?
松本:求められてる答えとは違うかなと思うんですが、メンバー3人とも京都出身で、僕もやから、東京にいてもくるりの現場にいるときは京都のマインドになるので、それは他のバンドとは違いますね(笑)。
野崎:京都の人の中に一人だけ東京もんがいると疎外感がありますけど、僕は岸田さんと佐藤(征史)さんと同級生なので、中二みたいなくだらない話をずっとしてるんです(笑)。
松本:のっち(野崎)は中毒性のある人なので、ハマればみんな好きになると思いますよ。フィーリングがすごく音に出るので、同じ曲でも「今日、音違うぞ。昨日ええことあったんかな?」って、ちょっとしたタッチからわかる人。くるりも中毒にやられてるんだと思います(笑)。
ーーくるりの音楽についてはどうですか(笑)?
松本:くるりの音楽って、すごく幅広いじゃないですか? やっぱり、そこが魅力のひとつやと思います。曲によって自分自身のキャラも変わるし、ツアーによって違う一面を出すこともたくさんある。『列島Zeppェリン』のセットリストの中でも、ハードなものからポップなものまであって、曲ごとにテンションも違いますし。今はそれが当たり前なので、そこまで意識はしてないですが、最初はそこが他にない難しさであり、楽しさでもありました。ギターの役割自体も、他の現場は「曲に合わせたギター」でしかないけど、くるりだと一パートのときもあればメインのサウンドを担うこともあるし、ギター以外の楽器を弾かせてもらうこともあるので、自分の音楽性も広がってる気がします。
野崎:くるりの曲って、キーボードが全面に出ることはそんなになくて、そもそも楽曲的に入っていないことも多いから、毎回悩むというか、いろいろ考えることは多いです。前にやったことがある曲でも、その都度したいアレンジがあって、それが伝わってくると、「違うアプローチをしなきゃ」って。まあ、違うときは「違う」とはっきり言ってくれるので、わかりやすくはあるんですけど。