石井恵梨子のチャート一刀両断!

aikoは20年間“たまらない気持ち”にさせるラブソングを作り続けてきた 『aikoの詩。』が首位に

 発売中の『音楽と人』2019年7月号を読むと興味深いインタビューがありました。時系列ではないことを指摘されたaikoは、「そんな怖いことできないです!」と即答。なぜなら「時系列で並べたら〈あぁ、aikoってこういうふうに変わったんや〉って丸わかり」だから。リスナーから見たら彼女ほど変わらないシンガーもいないと思うのですが、そこは本人にしかわからない変化があるのでしょう。そして、このインタビューが凄いのは、この作品は成長記録じゃないというインタビュアーの言葉のあとに飛び出すaikoの発言。いわく、「楽曲は大人にならなくていいんです」。

 なんてaikoらしいんだろうと膝を打ちました。経年、成長という概念、つまり時は流れていくし人は年老いていくものだという前提を、私たちはなかなか捨て切れるものではありません。ひと夏の恋に騒ぐパーティーソングも、出会えた奇跡を綴ったバラードも、それは決して永遠ではない、という前提ありきで作られています。“巡る季節”や“夜明け前”のような単語がポップスに多いのも同じことでしょう。でも、aikoの歌にはそれがない。あるのは、あなたを思っている“今”だけ。時は流れず、ただ、強烈な恋のなかに閉じ込められた“私”がいるのです。変わっていく未来なんて、どこにもない。

 いつの時代の曲を聴いても、一瞬で“たまらない気持ち”が溢れてくるaikoの曲。それは時を忘れたラブソングたち。永遠だから、成長せず、思い出にもならず、達観もしない。だからこんなに生々しいのでしょう。“みんなの恋ってこんなものだよね”とひとまとめにしたり、“あの失恋は辛かったな”と懐かしく回想してしまえば、それはもうaikoの歌にはなりません。こんな強烈なラブソングを20年間ずっと作り続けてきた彼女。天才、という二文字が改めて浮かびました。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

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