柴 那典の新譜キュレーション
ビリー・アイリッシュ、カリード、ヨルシカ、神山羊‥‥2010年代最後のライジングスター6選
ヨルシカ『だから僕は音楽を辞めた』
ヨルシカは、ボカロPでありコンポーザーでもある・n-buna(ナブナ)が、ボーカリスト・suis(スイ)を迎えて結成したバンド。
これまで紹介してきた面々とは毛色が違うように思う人がほとんどだろうけれど、僕はあえてここに彼を並べたい。
というのも、少し前に小袋成彬がラジオで、「ニコニコ動画出身のアーティストにティーンが盛り上がっている日本の現状は、そのままトラップミュージックに置き換えればアメリカの現状」というようなことを語っていて、僕としては、その分析にとても納得したところがあったから。
単に若い人たちが新しいジャンルに熱狂しているというだけでなく、どことなく共通するメンタリティのようなものがあるんじゃないかと僕は思っている。たとえばリル・ウージー・ヴァートがコアなアニメファンだったりするのもその象徴なんじゃないかと思うようなときもある。
ヨルシカは「物語音楽」ということを徹底しているクリエイターで、『だから僕は音楽を辞めた』というアルバムは、音楽と映像とCDパッケージと、全てのメディアを使って一つのストーリーを作り上げている作品。
MVが公開されている曲はギターロックを基軸に速いテンポで言葉数を詰め込んだ曲調が中心だが、アルバムを聴くと、むしろエレクトロニカのルーツを感じさせる4曲のインストゥルメンタルが効いている。ラストに向けて歌詞も曲調もどんどん内圧が高まっていく構成が見事。惹き込まれていく。
神山羊『しあわせなおとな』
神山羊は有機酸名義でボカロPとしても活動するシンガーソングライター。最初に彼のことを知ったのは「YELLOW」という曲がきっかけなのだけれど、最初の18秒にものすごくセンスを感じた。四つ打ちのビートと、ベースラインと、歌声。シンプルな組み合わせだけど、そこで聴く人をハッとさせる。「YELLOW」と連呼するサビも癖になる。
その後に発表された「青い棘」はグッとテンポを落としたナンバー。冒頭は90年代のR&Bポップスを彷彿とさせる16ビートの横ノリで始まるんだけれど、そこから変幻自在に展開していく曲調がいい。トラックメイカーとしての確固たる才能を感じる。
CDデビュー作となるミニアルバム『しあわせなおとな』をリリースし、先日には初ライブも開催したばかり。やはりバルーン名義でボカロPとして活動しその後シンガーソングライターとしてデビューした須田景凪とは、盟友とも言える存在。たとえば米津玄師とwowakaがそうだったように、お互い“同期”として切磋琢磨する関係なのだと思う。
現状では、たとえばヨルシカや、神山羊や、須田景凪といったアーティストのファン層と、ビリー・アイリッシュやカリードを愛好する日本の音楽リスナー層は、正直、それほど重なっていない気がする。
でも、小袋成彬が言うように、そこには通じ合う何かがあると僕も思う。だから、こういうキュレーション原稿などの仕事が、少しでもクラスタをつなぐきっかけになればいいなと願っています。
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter