斉藤和義のドラマ主題歌が残す斬新なインパクト 『アレ』に反映された最新型の音楽的モードを読む

 斉藤和義がニューシングル『アレ』をリリースする。北川景子主演のドラマ『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ系)の主題歌として書き下ろされた表題曲は、打ち込みのビートを軸に、ファンク経由のベース、ワウギターなどを融合したダンサブルなナンバー。日常の風景に潜むちょっとした違和感、そのなかで生じる感情を綴った歌詞を含めて、斬新なインパクトを残す楽曲に仕上がっている。

 まずは、その特徴的なサウンドメイクについて。プリンスが愛用したことで知られる“Sequential Circuits TOM”、Daft Punk、Squarepusherなども使用していた“Roland TR-707”という2台のビンテージドラムマシンを駆使して構築されたリズムは、テン年代以降のネオファンクの流れを汲みつつ、レトロフューチャリスティックなムードを醸し出している。そこに乗るベース、ギターも印象的。80年代の音楽(たとえばThe Rolling Stonesの「Undercover of the Nighht」)などを想起させるフレーズをさりげなく取り入れながら、過去と現在をつなぐ音像へと導いているのだ。

 続いては歌詞。〈夕暮れどきに電車に乗ったら、乗客のほぼ全員がスマホを見ている〉という、多くの人が見たことがある風景からこの歌は始まる。日常のなかにある何気ないシーンだが、少し離れた視点から見てみると、“これって、なんだかおかしいよな”という違和感を覚えてしまう……というのがおそらく、「アレ」の軸だろう。奇妙な圧迫感を生み出し続けるSNS社会、不平等や不公平がはびこる風潮に翻弄される現代社会を描きながら、斉藤は最後に〈頼りない自分に鞭打って 真っ暗闇にお月様 グッドナイト〉というフレーズによって、ギリギリのポジティブ感を聴く者に与えるのだ。この曲についてドラマ『家売るオンナの逆襲』のプロデューサー・小田玲奈氏は「言いたいことも言えない今の時代に、主人公・三軒家万智がキレイごとじゃないことをバシッと言って、 視聴者の心を解き放ちたい。……このドラマでやりたいことをお話したら、こんな素晴らしい曲があがってきました」とコメント。ドラマのテーマを正確に吸い上げながら、“いかにもタイアップ曲”という商業的な匂いを微塵も感じさせず、自身の音楽的モードを反映させた“最新型の斉藤和義”を提示する。この絶妙なバランス感覚もまた、他のアーティストにはない、彼の大きな特長だと思う。

 ドラマや映画の主題歌、CMソングなどを手がけてきた斉藤和義は、今回の「アレ」と同様、過去のタイアップ曲でも、数々のインパクトを残してきた。もっとも知られているのは、『家政婦のミタ』の主題歌「やさしくなりたい」(2011年)だろう。松嶋菜々子が演じる冷徹で有能な家政婦を主人公にしたこのドラマは、最終回の視聴率が40%に達するなど、驚異的なヒットを記録。それに伴い、「やさしくなりたい」も大きな注目を集めた。エッジの効いた煌びやかなギターフレーズにリードされたこの曲は、〈愛なき時代に生まれたわけじゃない〉という強いフレーズが込められたアッパーチューン。ドラマの内容に寄り添うというより、そこに込められたメッセージ性を自分の表現に取り込み、幅広い層のリスナーに訴求する楽曲へと導いているのだ。「ずっと好きだった」(資生堂『IN&ON』CMソング)、「歩いて帰ろう」(子供番組『ポンキッキーズ』オープニングテーマ)などを含め、タイアップの効果を上手く活かし、自らのオリジナリティと幅広く受け入れられるポピュラリティを兼ね備えた楽曲へとつなげる斉藤ならではのスタンスは、彼が四半世紀に渡って強い支持を得ている理由の一つだろう。

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