橘慶太の「composer’s session」:西寺郷太(NONA REEVES)

w-inds. 橘慶太×NONA REEVES 西寺郷太 対談【後編】 楽曲制作を支える信頼できる仲間の存在

 3人組ダンスボーカルユニット・w-inds.のメンバーであり、作詞・作曲・プロデュースからレコーディングにも関わるクリエイターとして活躍中の橘慶太。1月からはKEITA名義で12カ月連続シングルリリースすることを発表するなど今年も積極的な音楽活動を行っている。そんな彼がコンポーザー/プロデューサー/トラックメイカーらと「楽曲制作」について語り合う対談連載「composer’s session」の第4回ゲストは、マイケル・ジャクソンや80年代音楽シーンの愛好家・研究家としても知られるNONA REEVESの西寺郷太。後編となる今回は、最近の曲作りや2組のメンバーの作品への関わり方、さらにはポップスの歴史における大きなターニングポイント“1985年”にまで話題が及んだ。【前編はこちら】(編集部)

信頼できる仲間の存在が楽曲制作を支える

西寺の制作環境の一部を再現

橘:西寺さんは曲作りのどの作業がいちばん好きですか?

西寺:積み木じゃないですけど、集中して音を無心で打ち込んでいって、自分の思うかたちに構築してゆく瞬間そのものがまずは楽しいですよね。自宅のスタジオで全部機械を揃えたデスクの隣にマイクがあって、作ったらそのまま歌ってってエディットして、っていうのを夢中でやって作曲するのが最大の趣味です(笑)。

橘:曲作りはどのように進めています?

西寺:NONA REEVESではアコギの弾き語りで渡す時もあるし、いろんなパターンがありますね。小松(シゲル)のドラム、奥田(健介)のギターやキーボードをどうやって絡ませていくかということをみんなでアイデアを出し合いながら、自分で最初に作ったものがどんどん変わっていったりもしますし。

橘:みんなで作っていく。

西寺:メンバーとの付き合いも学生時代からで長いので、ひとつのやり方に飽きたら新しいことを試したり、逆にひとつ前のやり方に戻してみようという時もあります。ギタリストの奥田も作曲家でアレンジャーなんで、彼の作ってきたBメロとサビに僕がAメロを考えたりする「合体」型の作曲もありますし、あまり煮詰まった経験はないですね。もちろんいつも自分たちが新鮮でいられるように努力はしてるつもりですけどね。例えば前作のアルバム『MISSION』の制作はPCからいったん離れて、曲を作ったらスタジオにドラムとベースとキーボードとボーカルとギターで入って。リハーサルをしながらアレンジしてみたり、久しぶりにそういうアナログな作り方をしましたね。

橘:最近の曲作りは?

西寺:例えば、今、この大画面に僕のLogicのデモが映ってますけど、3月13日に出る『未来』というアルバムで「フィジカル」という曲。これは、生ドラムの変拍子を使った面白い曲ができましたね。クリス・デイヴもそうですけど、ドラマーが今、大ヒーローじゃないですか。小松に思いっきり叩いてほしくて。この曲は自転車に乗ってる時に変拍子のベースラインがまず思いついて、信号待ちの瞬間にiPhoneにベースラインだけ歌って録音しておきました。で、家に帰ってすぐに8分の7拍子のリズムを組んで。テンポは、僕の好きな97です。w-inds.についても聞きたいんですけど、慶太くんが曲を作り始めてから正式に作品としてリリースするまでに時間はかかったんですか?

橘:3、4年ぐらいは自分が納得したもの以外は出したくなくて、ずっと研究してました。中途半端なかたちで出したくなかったんです。自分で作った曲を例えばiTunesにあるような曲と比べると劣ってるのが一目瞭然でしたし。そうやっていろいろな曲と自分の曲を比較しながら、ある程度聴かせられるようになるまでは出してないです。だから最初は練習としていろいろな曲を作って、あとはw-inds.が海外のトラックメイカーから曲を提供してもらう時にデータをもらって、それをずっと見ながら独学で勉強していました。

西寺:『100』の「Dirty Talk」とか最初にYouTubeで見た時から印象に残ってるんですけど、制作はどういう感じなんですか? 基本は全部シンセサイザーとプログラミング?

橘:僕は全部打ち込みです。

西寺:ギターは?

橘:ギターは全部自分で弾いて録ります。アコギも録ってますね。僕はDAW上で編集するのが大好きで。音を録ってもどうやったら一番リアルに聞こえるかを考えるし、打ち込みも研究する派です。

西寺:曲を作るのは早いんですか? 出来上がるまでが早いのか、煮詰めるのか、作るまでは早いけど途中から色々こちょこちょやるのが好きなのかとか。

橘:僕はめちゃくちゃ早いですね。途中からいじるのはあんまり好きじゃなくて。

西寺:おー(笑)。あと気になったのが、w-inds.は、3人組のグループじゃないですか。他の2人はどういう感じなんですか? 自分も曲を作りたいっていうのか、「慶太、お前に任せるわ」っていう感じなんですか?

橘:もう完全に任せるわ、ですね。

西寺:2人とも?

橘:2人ともですね。

西寺:潔くてカッコいいですね。それは。2人は歌やラップは書くんですか?

橘:歌詞は書いたりするので、この曲は歌詞を書いてほしいという時にはお願いしてます。

西寺:ということは、2人がラップしているパートも慶太くんが書いてるってこと?

橘:「Dirty Talk」は僕が書きましたね。でも個人が書く曲もあります。そう、うちのメンバーは「ザ・いい人」なんですよ。

西寺:「ザ・いい人」(笑)。2人とも?

橘:2人ともです。よく言ってるんですけど、僕が生きてきた中でこれ以上のいい人を見たことがないワンツー(笑)。僕がメインボーカルだった時、最初に2人に歌ってほしいって言ってたんですよ。僕はグループとして3人で出ていきたいから、メインボーカルとダンサー、みたいなのがすごい嫌だっていう話をして。でも「いや、僕たちは支えることに美学を感じてます」って。それを聞いて「そんなグループある?」って思いましたけど(笑)。

西寺:若いのに、それが言えるってむしろ超かっこいいですよ(笑)。普通、頼まれてないのに「俺が目立ちたい!」ってなって無茶苦茶になることが多いから。話を聞いていて思い出したんですけど、慶太くんのスタンスって、僕が尊敬しているWham!のジョージ・マイケルとも重なる部分があるんですよ。彼は作詞も作曲もリード・ボーカルも打ち込みもやる。ソロになってからは、80年代当時1億円ぐらいしたシンクラビアっていう電子楽器を買って、全部プログラミングを自分でやるような人だったんです。で、最初にデビューしたグループのWham!は2人組で、相方のアンドリュー・リッジリーは学校の友達なんだけど、彼はジョージに音楽的なことは何にも言わないんですよ。「ジョージ、お前天才だからひとりでやれよ」、曲を聴かせても「お前すごいなぁ」って大絶賛するだけ。出来上がった音を聞いた時に「めっちゃいいやん!ジョージ最高!」って言うだけなんですが、それが結構重要な役割で(笑)。

 w-inds.と細かい部分はだいぶ違うけど、とにかく僕はそうやって「思い切り任せることが出来る姿勢」がすごいと思っていて。普通のバンドだと「自分の曲も入れろ」とか「B面は自分の曲にしてくれ」とかで揉めて崩壊していくものですけどね。最終的に、Wham!は円満解散して。ジョージ・マイケルはソロになって、1st『Faith』で大成功したんですけど、その後悩みに入るんです。レコードの出る枚数がWham!の時代よりめっちゃ減ってしまって。結局、完璧主義なんで自分で合格ラインが出せなくなるんです。ソロになってから30年近くでアルバム4枚しか出してないですからね。全部いい作品なんですけど、アンドリューみたいに「めちゃくちゃ最高」とか「お前天才だな」って対等な立場で言ってくれる信頼できる仲間の重要性というか。

橘:僕もそれよく思うんですよ。やっぱり近くにいる人にいいって言ってもらえるって、すごい自信になるなって。本当に同じような話なんですけど、曲を持ってったら絶対2人から「いやー、天才だな」「いやー、さすがだな」って言ってもらえるんですよね。

西寺:すごい(笑)。でもそりゃ、言うだろうけどね、慶太くんからあのレベルのサウンドと楽曲を聴かされれたらね。

橘:ちょっと気持ちいですもん(笑)。でも本当にそんな感じですね。どんな曲がいいって聞いても、「うーん、慶太がいいと思ったやつがいいと思う。絶対間違いないと思うから」みたいな感じで。

西寺:それでもダンスとかラップは全力でやって。カッコいいし(笑)。めっちゃいいやん(笑)。

橘:僕が作った曲を、本当に自分が作ったかのように思ってくれるんです。

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