アルバム『ALL THE LIGHT』インタビュー

GRAPEVINEが語る、アルバム制作に向かう意識 「ちょっとした突破口はやっぱり必要」

“にやり”とできるところだったり、居心地の悪さを入れたい(田中和将) 

ーー「Alright」もそうですけど、アルバム全体を通して、前向きさ加減がいつもより高い気がします。

田中:そうですか。まあ、いままでは前向きじゃなかったと言われたら、ちょっと心外ですけど(笑)。「Era」とか「すべてのありふれた光」とか、光をモチーフにした曲がいくつかあるから、キラキラしている印象があるのかもしれないですね。

ーー特に「すべてのありふれた光」は、アルバムの大きなポイントだと思います。曲の終盤、〈ありふれた未来がまた/忘れるだけの 忘れるための〉の後、〈それは違う〉という強い言葉によって曲の印象が一気に変わりますが、この言葉を使ったのはどうしてですか?

田中:特別な理由があったわけではないんですけど……。〈それは違う〉の前は、今までの僕のやり方だと思うんですよ。そこで〈それは違う〉を挟むのはそこそこ勇気が要りましたけど、そのまま終わらせてはいけない気がして。決してハッピーエンドではないですけど、せめて“扉が開いたかも”“光に触れたかも”というところまでいかないとダメな気がしたというか。

ーー確かにこれまでの曲は“光に届きそうで届かない”というイメージの曲が多かったですよね。

田中:そうですね。そういう儚さ、虚しさを歌うことは確かに多かったし、それが僕の歌詞のイメージだと言われたら、否定はできないと思います。ただ、この曲に関してはそれだけではダメで、何かしら自分のなかで決着を付けないといけなかったんだろうなと。

ーー強く心に残る歌詞ですよね。年齢を重ねることで、10代、20代のときとは違う不安や怖さも生まれてくるし、さらに切実に光を求めるようになると思うので。

田中:そう言ってもらえるとありがたいですね。この歌詞を書いた甲斐があります。

ーーGRAPEVINEには「光について」(1999年)という名曲がありますが、「すべてのありふれた光」の歌詞を書くにあたって、2曲のつながりは意識していました?

田中:いや、それはないですね。照らし合わせて書いているわけではないので。ただ、同じ人間が書いているので……。これは昔から言ってることですけど、書いている内容はさほど変わらないと思うんですよ。表現の方法、言葉の使い方、視点の置き方、シチュエーションや設定はいろいろありますけど、内包しているテーマはいつも同じというか。そう考えると、「光について」も「すべてのありふれた光」も同じようなことを歌ってるのかなと。まあ、「光について」はずいぶん若いときに書いてますから、それなりにフツフツとしたものはありますよね。そのあたりを照らし合わせて聴いてみるのは、おもしろいかもしれないです。

ーー“内包しているテーマ”こそが、田中さんの作家性なんでしょうね。音楽的にも同じことが言えますか?

田中:いろいろ試してますけどね、そこは。

西川:よく“ひとりの人間から出てくるメロディは、大して多くない”って聞きますけどね。歌い回しも、そんなに多くないだろうし。

田中:歌う人が違えば変わるんだろうけど、そうじゃないですからね(笑)。どうしても似たようなものが出てくるというか。

西川:まったく新しいメロディを考えたところで、「つまらない」と思うこともあるだろうし。同じようなものでも「カッコいいな」と感じられればいいわけで、あまり意識はしてないですけどね。

ーー亀井さんはどうですか? メインの作曲者として、数多くのメロディを書いてきたわけですが。

亀井:「同じような曲ばかりできるな」と思いますね(笑)。制作に入ったら、とにかく曲を作って持っていくわけですけど、「アレンジで新しい感じになるといいな」という期待はいつもあって。プロデューサーを立てることもそうですけど、ちょっとずつ変えながらやってきたというか。自分たちだけで曲を作って、「お!」と思えることは少なくなってますけど、「次こそは」と思って続けてます。

ーー『ALL THE LIGHT』というアルバムタイトルについても聞かせてください。いつになくキャッチーなタイトルですよね。

田中:さっきも言いましたけど、光をモチーフにした曲が入っているのもそうだし、わかりやすくて気持ちいいタイトルがいいかなと。

西川:確かに難しさはまったくないですよね。『BABEL, BABLE』なんて、意味がわからないじゃないですか。

田中:ハハハハハ。

西川:あれはあれでキャッチーだったと思いますけどね。

ーーそういえば前作『ROADSIDE PROPHET』も、すぐに意味がわかるタイトルではなかったような。

田中:前作はちょっと難しかったですね(笑)。

西川:GRAPEVINEというバンド名もわかりづらいですから。

田中:結成したときから不親切なバンドでした(笑)。

西川:デビューしたとき、「わかりづらいからバンド名を変えよう」って言われたんですよ。

ーーえ、そうなんですか? そんなの「変えるわけないやろ!」ですよね?

西川:いやいや、すぐに違うバンド名を考えたんですよ(笑)。でも、なかなか良い名前が浮かばず、結局は「このままでいいか」ということになって。

田中:バンド名にも、そこまでこだわりがあるわけではなくて。「差し当たり、これでいいか」みたいな感じで決めたので。

亀井:最初はぜんぜん聞き取ってもらえなかったんですよ。「グレイプパイン? おいしそうな名前ですね」って言われて(笑)。

田中:発音も難しいですからね。アメリカでライブしたときに、「自分のバンド名くらい、きちんと発音しよう」と思って練習したんだけど、なかなか上手くできなかった(笑)。

ーーGRAPEVINEというバンド名も、探れば興味深い由来があって。田中さんは以前からリスナーに対して「能動的に聴いてほしい」と言ってるし、わかりづらいバンド名にもその姿勢が出てるのかも。

田中:それは「リスナー体験が豊富なほうが、おもしろくなるよ」と言いたいだけなんですけどね。「プロ野球を10倍楽しく見る方法」じゃないけど、アレやコレや知っていたほうが、いろいろとわかってくるじゃないですか、音楽に限らず。そのことを身をもって示しているわけですよ(笑)。

ーー曲を制作していて、「これはわかりやす過ぎる」みたいな話になることも?

田中:ありますね。アレンジしてるときとか。

西川:「わかりやす過ぎる」より「これだと難しすぎる」という話をすることが多いかな。

田中:そうかも。「もうちょっと親切にしたほうがいいか」とか。

西川:結局、やりたいようにやってますけどね。

田中:結果的に不親切(笑)。

ーーアレンジにおける親切、不親切って?

西川:たとえば「ここでそんなに混沌とさせる?」とか。曲の構成上、その後の解放感を狙ってやってるんですけど、「そこまでやる必要はないんじゃないか」みたいな話をすることもありますね。あとは「せっかくこんなに美しい曲なのに、不穏な感じで終わるのは後味がよろしくないのでは?」とか。

ーーなるほど。ただ、GRAPEVINEの音楽は決して難解ではないですよね。

田中:そう思いますけどね。基本的には普通にロックをやってるつもりなので。そのなかに“にやり”とできるところだったり、居心地の悪さを入れたいっていう。そういう性分だとしか言いようがないですけど。

ーー一見さんにはハードルが高いかもしれないけど、なかに入るとめちゃくちゃ奥が深いという。実際、GRAPEVINEのファンはディープに楽しんでいる人が多いですからね。

西川:楽しんでくれてるのかな? あんまり聞いたことないけど(笑)。

田中:「こんなにいい曲なのに、何でこんなことするんだろう?」という方が多い気がするけど(笑)。

ーー(笑)。2018年の“21周年ツアー”(『GRAPEVINE club circuit 2018』)もかなり渋いセットリストでしたが、僕のまわりのGRAPEVINEファンはめちゃくちゃ楽しんでたみたいですよ。

田中:それは良かった。よく教育されたリスナーなんでしょうね。

西川:何もリリースのないツアーだったし、比較的小さい会場が多かったですからね。たぶんヘビーリスナーの方、昔から聴いてくれてる人が多かったと思うので。

ーーアルバム『ALL THE LIGHT』を引っ提げたツアーも楽しみです。今年は“22周年ツアー”ですね。

田中:そうなりますね(笑)。

ーー毎年“○年”と言ってたら、25周年、30周年のありがたみがなくなる気がしますが。

田中:いいんですよ、それで。そうなることを見据えての発言ですから。10周年、15周年もそうだったんですが、“○周年”を掲げると、ツアーのチケットがバーッと売れたりするんですよ。それにちょっとイラッとして(笑)。

西川:ハハハハハ!

田中:ベスト盤みたいなライブを期待してるんでしょうけど、「ふだんのツアーも来いよ」っていう(笑)。

西川:周年のタイミングって、大きい会場でライブをやりがちじゃないですか。別に小さい会場でもいいですよね。小さめの会場で5日間やるとか。

田中:5日間はきついけどね(笑)。

ーー(笑)。今年のツアーはもちろん、新曲をたっぷり聴けそうですね。

田中:まだ何も考えてないですけど、今回のアルバムは、いつも以上にライブで再現できない曲が多いんですよ。ライブならではの演奏になるでしょうね。

亀井:原曲とは変わってくる部分もあるだろうし、それがおもしろくなっていけばいいなと思ってます。

(取材・文=森朋之/写真=林直幸)

GRAPEVINE『ALL THE LIGHT』

■リリース情報 
『ALL THE LIGHT』
発売日:2月6日(水)
初回限定盤:CD + DVD ¥4,500(税抜)
*スリーブ仕様
*DVD「GRAPEVINE LIVE RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO」
<収録曲>
M1.Arma
M2.疾走
M3.スロウ
M4.Darlin from hell
M5.エレウテリア
M6.Golden Dawn
M7.CORE
M8.光について
M9.Everyman, everywhere

通常盤:CD ¥3,000(税抜)
<収録曲>
全10曲 
M1.開花 
M2.Alright 
M3.雪解け 
M4.ミチバシリ 
M5.Asteroids 
M6.こぼれる 
M7.弁天 
M8.God only knows
M9.Era 
M10.すべてのありふれた光

■ツアー情報
『GRAPEVINE tour2019』
4月12日(金) 恵比寿LIQUIDROOM
4月14日(日) 新潟LOTS
4月20日(土) 神戸ハーバースタジオ
4月21日(日) Live House 浜松 窓枠
4月27日(土) 札幌ペニーレーン24
5月11日(土) 熊本B.9 V1 
5月12日(日) 鹿児島CAPARVO HALL 
5月18日(土) 岡山 YEBISU YA PRO 
5月19日(日) 松山 Wstudio RED 
5月25日(土) 金沢 EIGHT HALL 
5月26日(日) 長野CLUB JUNK BOX 
6月1日(土) 盛岡 Club Change WAVE 
6月2日(日) 仙台Rensa 
6月8日(土) 福岡DRUM LOGOS 
6月9日(日) 広島クラブクアトロ 
6月14日(金) 名古屋ボトムライン 
6月15日(土) なんばHatch 
6月22日(土) 宇都宮HEAVEN'S ROCK VJ-2 
6月23日(日) 郡山 CLUB #9 
6月28日(金) Zepp Divercity

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