『【beauty;tricker】~渋谷が大変~』主催者に聞く、イベント開催理由とV系シーンの“現在”

『渋谷が大変』主催者に聞く、V系シーンの現在

「最近は“共有しよう”みたいな空気感が主流」

ーーイベントを運営する上で、色々なバンドを観ていると思うのですが、最近のバンドにはどういった傾向がありますか?

田沢:最近は「普通に音楽を演奏している」だけではお客さんの心を掴めないというか、「引き出しが多い」バンドが人気を集める傾向にあると感じています。今回の『~渋谷が大変~』に出演するバンドでいうと、甘い暴力がそうですね。甘い暴力は、『【beauty;tricker】』の方にもよく出てくれるんですがライブ前の寸劇や小ネタも毎回違うので、観ていて楽しいですね。

(甘い暴力:「現代のこじらせ女子達へ“スイート・バイオレンス ロック”を発信」をテーマにし、病んだ女性視点の楽曲で支持を集めている。公式サイト

ーー甘い暴力は<CRIMZON>という関西発のビーイング系列レーベルに所属していて、曲がキャッチーというのもありますね。ビーイング感があるというか。

田沢:<CRIMZON>所属のPurple Stoneの曲はキャッチーで耳に残りやすい楽曲が多いです。他にも-真天地開闢集団-ジグザグも<CRIMZON>所属ですね。そういった関西のバンドならではの面白さもあるかもしれませんね。

Purple Stone「ポイズンチョコレート」 MV~YouTube Ver~

(Purple Stone:ダンサブルなサウンドが特徴。ボーカルのkeiyaは久保田敬也名義で倉木麻衣の「YESTERDAY LOVE」の作曲を担当している。公式サイト

真天地開闢集団ジグザグ / 梅田クアトロ単独公演ダイジェスト

(-真天地開闢集団-ジグザグ:【破壊の祈祷師】命-みこと-【風来の歌舞伎侍】蒼梓-あおし-の二人組。ライブを「禊」と称し、ライブハウスにはびこる悪霊を退散するというコンセプト。曲のテーマは“バンギャル(ヴィジュアル系バンドのファンの総称)”ネタが多い。公式サイト

ーーおっしゃるように「引き出しの多い」バンドが支持されている傾向はありそうですね。

田沢:ヴィジュアル系に限ったことではないかもしれませんが、あれもこれも詰め込んで、お腹いっぱいになるバンドが流行っているように思います。

ーーその一方でキズのように、ストイックでカリスマ性の高いバンドも人気ですよね。

田沢:おそらくは、どちらかに特化してないと、印象に残りにくいのではないでしょうか。

キズ 3rd SINGLE「傷痕」MV FULL

(キズ:結成約10カ月でTSUTAYA O-WESTをソールドアウト、今秋にはZepp TOKYOでのワンマンも決定。公式サイト

ーーそういった多様なバンドと共演することで、バンド同士もモチベーションが高まって良い循環ができているのかもしれませんね。

田沢:ヴィジュアル系という業界に関わっている人、働いている人なら、シーンを盛り上げていかなくてはという気持ちは持っていると思うんです。

ーーそう考えるのはなぜですか?

田沢:今はアイドルや2.5次元、声優、K-POPなど、様々なエンタメが溢れています。昔だったらヴィジュアル系を聴いていたかもしれない人たちが、そっちに流れているのではないかというのは、肌で感じているからです。

ーーヴィジュアル系、とくにインディーズのヴィジュアル系バンドの客層は10代半ば~20代の女性がメインだと思います。競合ジャンルと考えた場合、「他ジャンルのロック」というよりは、地下アイドルや2.5次元、声優など、もっと広い層を想定されているということですね。「人が流れている」という部分に危機感はありますか?

田沢:それは感じています。昔のインディーズのヴィジュアル系シーンを振り返ってみると、バンド同士の“争奪戦”のような雰囲気があったと思うんです。対バンイベントで共演する場合、「このイベントに出てるバンドのファンを取ってやろう!」みたいな意識でライブをしていたバンドが多かったように感じました。しかし最近は“共有しよう”みたいな空気感の方が主流になっているように感じます。

ーーお客さんの方は?

田沢:以前は自分の好きなバンドがひとつでも出ていたら、イベントに足を運ぶという人は多かった気がします。それが最近は自分が好きなバンドが複数出ているイベントの方を選ぶ人が多いんじゃないでしょうか。ヴィジュアル系バンドに限った話ではなく、世の中全体的に「コスパ」、「お得感」を重視しているのかなと思います。

ーー近年、ヴィジュアル系インディーズシーンで頭一つ抜けているバンドが少なくなっているように感じます。それはそういった気質も影響しているのでは?

田沢:そうですね、昔は10組いたら、8組ぐらいはすぐに頭一つ抜けて次のステージに行っていたと思います。たとえば、通常の動員30名の状態からスタートして、そのすぐ後50人、70人……ワンマンもすぐに売り切るようなバンドがひしめきあっていた。それが最近は、その人数が減っていて、50人入ったら凄い、100人は次元が違う、という状態になってきてると思います。

ーーなるほど。

田沢:うちはマネジメントもやっているので、ブッキングと発掘を兼ねて若手のバンドを探しているんですけど、「バンドにならない状態」で終わっていることも多いんですよ。セッションバンド(シーンで人気のある曲のコピーを中心に演奏するバンド)で終わっている。

ーーセッションバンドでライブ経験を積んで、正式にオリジナルバンドをやるというケースは、現在のヴィジュアル系シーンの中では多いパターンですね。

田沢:それが最近は、オリジナルをやろうということもなく、「セッションバンド」で終わるケースが多いんです。人気の曲を演奏して、盛り上がっている“風”。下手したらオリジナルをやっているバンドよりお客さんが入っていることもあるので、こっちの方がいいんじゃないかという風潮もある。

ーーつまり、野心がないと。

田沢:野心よりも協調性を重んじているのかもしれませんね。昔は楽屋でも皆バチバチだったのが、「一緒に写真撮りませんか?」みたいな雰囲気になって……。「人に嫌われたくない」っていう世の中の風潮もあって、そうなるのかもしれません。

ーーそれだと、皆仲良く地盤沈下を起こしてしまうような……。

田沢:長期的に考えたら、危機感はありますよね。

ーーそういった浮き沈みはあれど、ジャンル自体は廃れないヴィジュアル系の魅力ってなんだと思いますか?

田沢:やはり、非日常的な世界観でしょうか。見た目の派手さも含めて、作り込んだ世界というのは魅力だと思います。現状、個人的には何が打開策なのかを試行錯誤しているところはありますね。今は親しみやすいバンドが多い傾向がありますが、また“カリスマ”の時代が来るかもしれないですし。SNSが主流で、「いいね」ひとつで満たされてしまう時代に、生のライブを五感で楽しんで欲しい。そういう気持ちでイベントを運営しているので、ぜひ『~渋谷が大変~』にも足を運んでほしいですね。

(取材・文=藤谷千明)

『FWD PRESENTS「【beauty;tricker】~ 渋谷が大変2018~」』

■イベント情報
『FWD PRESENTS「【beauty;tricker】~ 渋谷が大変2018~」』
2018年8月7日(火)
TSUTAYA O-EAST / TSUTAYA O-WEST / TSUTAYA O-nest / TSUTAYA O-Crest / shibuya duo MUSIC EXCHANGE(全5会場)
開場 11:00 / 開演 12:00
※全会場出入り自由・但し入場制限有り
※入場者全員に「渋大book2018」配布
チケット:前売 8,000円 / 当日 9,000円(ドリンク代込)
(問)NEXTROAD 03-5114-7444(平日14:00~18:00)

■関連リンク
オフィシャルサイト
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