西廣智一の新譜キュレーション 第4回

Amorphis、Ihsahn、At The Gates……北欧エクストリームシーンを支える重鎮たち

ノルウェー

Ihsahn『Ámr』

 メタル大国フィンランドに続いては、ブラックメタルの聖地ノルウェーからの新作。最初に紹介するのは、ブラックメタルの伝説的バンドEmperorのフロントマン、Ihsahn(イーサーン)のソロアルバム『Ámr』です。Ihsahn自身はインナーサークルとは一線を置いており、ブラックメタルについては音楽的関心しかないと発言。このソロプロジェクトではEmperorにも通ずるシンフォニックデスメタルのカラーを残しつつ、よりプログレッシブロック的側面が強まった独自のスタイルを確立させています。通算7作目のアルバムとなる本作でも、過去の諸作同様にドラム以外ほぼすべての楽器をIhsahn自身が担当。ブルータルさの中にもどこか優雅さや上品さが感じられる知的なアレンジは、彼ならではと言えます。デスボイスやグロウルさえ気にならなければ、プログレファンにも楽しんでもらえる1枚でしょう。

Ihsahn - Arcana Imperii
Dimmu Borgir『Eonian』

 ノルウェー2組目は、25年のキャリアを持つブラックメタルバンドDimmu Borgirの8年ぶり新作『Eonian』。多くのメタルファンがブラックメタルと聞いてイメージする白塗りのコープスペイントを施したビジュアルを今も保ち続ける彼らですが、そのサウンドは単に邪悪なだけでなく、シンフォニックで壮大さが強く感じられるものばかりです。そういった点においては、イギリスのCradle Of Filthとともに“シンフォニックブラックメタル”の代表格と言えるでしょう。前作『Abrahadabra』(2010年)ではThe Norwegian Radio Orchestraを起用しましたが、通算10作目となる本作ではライブでの共演経験を持つ合唱隊Schola Cantorum Choirが全面参加。重厚なメタルサウンドとデスボイスに交わる賛美歌のような合唱、そのハーモニーから生まれる唯一無二のスタイルは賛否あるかもしれませんが、25年続いたバンドの進化と到達点と考えれば興味深い点が多いかもしれません。

DIMMU BORGIR - Interdimensional Summit (OFFICIAL MUSIC VIDEO)
Wardruna『Runaljod – Ragnarok』

 3組目は今回ピックアップしたバンドの中でも一番異色の存在と言えるWardruna。ノルウェーのブラックメタルバンドGorgorothのドラマーだったアイナル・セルヴィク(当時はクヴィトラフンと名乗っていた)が、自身のルーツに目覚め土着の民謡や伝承に触発されたことを機に、2003年に結成。ブラックメタルを起点に、トラッドフォークやゴシック、アンビエントといった激しさの対極にあるスタイルが確立されていきます。本国では2016年に発表され、ここ日本でもようやく今春リリースされた彼らの3rdアルバム『Runaljod – Ragnarok』では、もはやメタルとは結びつかない“ワールドミュージック”が展開されていますが、これもブラックメタルの進化の先にある形=ポスト・ブラックメタルのひとつと考えると、どこか腑に落ちるものもあるのではないでしょうか。

Wardruna - Raido

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