小室哲哉、引退発表によせて 昨今のTKソング再評価、音楽シーンに与えた影響を振り返る
2017年から起こっていたTKソングの再評価
引退とは関係なく、書かなければいけないと思っていた出来事があった。2017年年末から2018年にかけて、小室哲哉を取り巻く音楽環境が盛り上がりをみせていたということだ。平成ブームとでもいうべきシーンが高まるなか、稀代の音楽家 小室哲哉は今年の11月27日には還暦、60歳を迎えようとしている。
まず注目されたのが、引退を発表した安室奈美恵への16年ぶりの新曲提供だ。200万枚を突破したベストアルバム『Finally』(11月8日発売)収録の小室哲哉プロデュース曲「How do you feel now?」は、安室へ向けた優しい眼差しを感じられる感謝の歌だ。docomoのCMで耳にした方も多いことだろう。
さらに昨年、小室哲哉と浅倉大介によって結成されたPANDORAの「Be The One」(feat. Beverly)のフルサイズ音源がiTunesシングルチャート1位を記録していたことに注目したい(1月6日正午時点)。本作は、人気テレビ番組『仮面ライダービルド』主題歌。90年代のTK全盛期を知らないキッズはもちろん大人世代をも巻き込む大ヒットを予感させるポップチューンだ。<今を生きよう そして忘れない 奇跡と偶然>というフレーズも、今となっては印象深い。小室哲哉が生み出すポップソングは歌詞もいつだって素晴らしい。本作にもその魅力は受け継がれている。
新曲だけにとどまらず、2010年にリリースされたglobeの15周年ベストアルバム『15YEARS-BEST HIT SELECTION-』が、12月度レコチョクアルバムランキング1位を記録した現象にも注目したい。収録曲であり、代表曲である「DEPARTURES」(1996年1月1日発売)が、Prince skiキャンペーンとして約20年ぶりのタイアップが決定したことも話題となった。昨年4月にはTM NETWORKの「Get Wild」(1987年4月8日発売)の派生シリーズ音源を集めたCD『GET WILD SONG MAFIA』がヒットしたことも忘れられない。
小室哲哉がプロデュースを手掛けた5人組ガールズグループDef Willによる、90年代TKヒッツをカバーしたアルバムもリリースが予定されている。先行してtrf「寒い夜だから…」、dos「Baby baby baby」、篠原涼子「Lady Generation」 の3曲がYouTubeティザー動画として発表されるなど、時代を超えたTKソング再評価が同時多発的に起きているのだ。
PANDORAは、1月24日には「Be The One」PANDORA feat. BeverlyのシングルCDのリリースとともに日本武道館で開催される『超英雄祭 KAMEN RIDER × SUPER SENTAI LIVE & SHOW 2018』への出演。1月26日ビルボードライブ東京、2月3日ビルボードライブ大阪での単独ライブ公演を控え、2月7日には『ULTRA JAPAN』で先行バージョンが披露された新曲「Shining Star」を含むPANDORAの1stミニアルバム『Blueprint』のリリースを控えていた(今後、ライブやイベントなどに出演するかは現時点では未確認)。
誤解多き、小室哲哉引退発表
その矢先の引退発表だ。
記者会見で小室さんはそもそも騒動の原因を否定している。もちろん、誤解を招きかけない行動であったかもしれない。しかし、一言では片付けられない複雑な問題なのだ。
妻であるKEIKOさんのケア、体調不良、身体の衰え、モチベーションの低下、周囲の期待からにプレッシャー。あれだけ本人が真摯にすべて記者会見で自らの言葉で語っても、誤解であふれたニュースやSNS投稿でいっぱいの世の中だ。しかし、小室さんを理解し支持する声が多かったことには勇気付けられた。長時間自分の言葉で語り、質疑応答にも真摯に答えた記者会見。これまで数多く取材をさせていただいてきたが、小室さんはピュアであるがゆえに何事もオープンに隠し事なく答えてくれる人だ。そして、今回も思いを自分の言葉で語られたのだ。
アーティストとは繊細であり孤独な存在だ。本人が会見で話されていた“罪と罰”を“引退”というけじめで償うという行動には今回の騒動のみならず、様々な事象が折り重なっていたように思えた。そこへ、思ってもないタイミングで引鉄はやってきた。
2017年10月10日、シンガー坂本美雨とともにピアノライブで訪れた上海の地で、小室哲哉がインスタグラムへ投稿された言葉が今は心に響く。悩んでいたことに間違いはないだろう。
異国の地、上海で考えていました。
僕は、引退しないのかな?
定年はあるのに?
家族って、何を指すのかな?
愛って何なんだろう?
少し疲れたかな?
なんてね~(^^)
喧騒は時に孤独にさせるのです。
(TKオフィシャルInstagram @tk19581127)