でんぱ組.incの物語はもう一度始まるーー柴那典が大阪城ホール公演からグループの今後を考察

「なんだかんだ言って、やっぱり曲がよくて、ライブがいいから、全部がよくなるんだよね」

 2017年12月30日、でんぱ組.incが久々となるワンマンライブ『JOYSOUND presents ねぇもう一回きいて?宇宙を救うのはやっぱり、でんぱ組.inc!』を大阪城ホールにて開催した。その終演後に知り合いの編集者やライターと感想を語り合った際に出てきた、筆者の素直な第一声がそれだった。

 2017年のでんぱ組.incにはいろいろなことがあった。グループは決して順風満帆とは言えない状況だった。2017年1月に開催された武道館公演では、その先にライブ活動がしばらく予定されていないことが古川未鈴のMCで告げられていた。その後8月には最上もががグループを卒業することを発表し、久々となる再始動ライブの大阪城ホール公演は5人編成で臨むことになっていた。

 そして、すでにニュースなどでも報じられている通り、この日のステージでは、でんぱ組.incに根本凪(虹のコンキスタドール)、鹿目凛(ベボガ!)が各グループと兼任する形で正式にメンバーとして加入することが発表された。グループは新たに7人での新体制になった。

 ニュースやSNSを通じてこのことを知ったファンの間には賛否両論の反応が見られた。どんなアイドルグループでもそうだろう。グループの物語に思い入れを持ち心酔してきたがゆえに、新メンバー加入を受け入れられないタイプのファンはいる。ましてやでんぱ組.incには「W.W.D」シリーズという6人の過去と現在のドキュメントから生まれた楽曲もある。

 が、ライブを実際に観て感じたのは、そういった物語性、すなわち1年近くのブランクや、メンバー脱退という逆境や、新メンバー加入が巻き起こすだろう賛否両論や、そういった数々の要素を吹き飛ばすほどの「強度」がパフォーマンスに宿っていたということ。歌とダンス、つまりはステージングで圧倒する、有無を言わせないエンターテインメント性がそこにはあった。

 会場に足を踏み入れると、まず目に入ったのはステージにそびえ立つ巨大なスペースシャトル。前方には宇宙服を着た5体の人形も置かれ、後方にはオペレーションルームを思わせるモニターなどの装飾が並ぶ。白衣を着た女の子たち(バックダンサーを務めたシンセカイセンとChu☆Oh!Dolly)が画面に向かって操作をはじめ、スクリーンに発射カウントダウンが表示される。しかし、カウントダウンは途中でエラー画面に。宇宙服を着たメンバー5人の謝罪会見の映像がスクリーンに映し出され、そこからメンバーがステージに登場してライブはスタート。この日の公演タイトル「ねぇもう一回きいて?宇宙を救うのはやっぱり、でんぱ組.inc!」にもある通り「宇宙」をコンセプトにした演出だ。

 そして1曲目に披露したのは「Future Diver」。これまでのライブでも多く披露されてきたグループの代表曲は、2011年の1stアルバム『ねぇきいて?宇宙を救うのは、きっとお寿司…ではなく、でんぱ組.inc!』に収録されたナンバー。メジャーデビューシングルでもあり、旧メンバーの跡部みぅが最後に参加した曲でもある。グループの節目を象徴する一曲だ。

 ライブは「バリ3共和国」「VANDALISM」「ちゅるりちゅるりら」と進む。印象的だったのは、バックバンド「でんでんバンド」の演奏だ。でんぱ組.incのキャッチコピーは「萌えきゅんソングを世界にお届け」だし、グループのルーツにも00年代のネットカルチャー由来の「電波ソング」がある。が、それがストリングスやホーンを含む大編成のバンドによる生演奏で披露されることで、いわば高速ファンクとも言うべき生々しく性急なグルーヴに進化する。

 メンバーのパフォーマンスもキレキレだ。5人編成となって歌割りもダンスも変化しているが、ブランクどころか、かなりの鍛錬を感じさせる歌とダンスを見せる。特にフロア全体がピンク色のサイリウムの光に染まる「サクラあっぱれーしょん」は、でんぱ組.incにしかない唯一無二の高揚感を生む。

 ライブでは初めて歌ったという6人体制での最後のオリジナルアルバム『GOGO DEMPA』収録曲「きっと、きっとね。」を披露し、夢眠ねむはMCで、グループのこの先に不安になっていた時期にこの曲を聴いて励まされてきたと涙ながらに語る。「みんな泣いちゃってボロボロだけど、気持ちは高まってる」と成瀬瑛美が語ったとおり、前半からメンバーたちは感無量の表情だ。

 そして新メンバーがお披露目されたのは、ライブ後半に披露された「Dear☆Stageへようこそ♡」。でんぱ組.incが本拠地とする秋葉原・ディアステージを舞台にしたミュージカルテイストの楽曲だ。

 ステージには5人の他に店を訪れた男性役を演じるマント姿の2人が登場。寸劇を経て、曲の途中で2人が早着替えをすると、でんぱ組.incの衣装を着た根本凪と鹿目凛の姿が現れる。そして、続く「でんでんぱっしょん」では、〈この先大丈夫かなあ〉と始まる中盤のセリフパートで成瀬瑛美が〈大丈夫! 新メンバーもいるし、仲間だもん!〉と告げる。

 そして、曲終了後に改めて新メンバー2人が自己紹介。この流れがすごく印象的だった。MCやスクリーンでの「告知」という形ではなく、歌のパフォーマンスの中で2人がメンバーに加わったわけである。そして、先輩となった藤咲彩音がタイトルコールをした「NEO JAPONISM」、さらには「破!to the Future」を新体制バージョンで歌い、ライブ本編は終了した。

関連記事