『三菱UFJニコス Presents 松任谷由実コンサートツアー 宇宙図書館 2016-2017』最終公演レポート
松任谷由実はさらに先へと進む 自己最長ツアーで見せた濃密なエンターテインメント
そして言うまでもなく、すべての中心にあるのはユーミン自身の歌だ。ライブ前半は高音がやや掠れる場面もあったが、ライブが進むにつれて声量が増し、ピッチも安定。7曲目の「ひこうき雲」(1973年アルバム『ひこうき雲』収録)あたりからは安心して彼女の音楽世界に浸ることができた。本編ラストの「GREY」(『宇宙図書館』収録)における感情を手渡すようなボーカルも素晴らしかったが、圧巻だったのはアンコールで披露されたメドレー。「守ってあげたい」「埠頭を渡る風」「春よ、来い」「DESTINY」などをつなぐ10分以上に及ぶメドレーを彼女は、ダンサーと一緒に踊り、観客とコミュニケーションを取りながら力強く歌い切ってみせたのだ。「これが最後になってもいい」というほどの強い思いで挑んだ今回のロングツアーをやり遂げたことでユーミンは、シンガー/パフォーマーとしてのレベルの高さを改めて見せつけたのだと思う。
2度目のアンコールで「完走しました! これからもなるべく時の流れに負けないように走って行きます」と宣言し、バンドマスターの武部聡志(Key)とふたりで「青いエアメイル」(1979年アルバム『OLIVE』収録)を歌い上げる。さらにバンドメンバーとスタッフ全員を呼び込み、「ツアーは約1年、リハーサルを入れると約2年、ともに戦い続けた仲間たちです。これだけの長い期間、モチベーションを持ち続けるのは大変だったと思います。小さな失敗、大きな失敗、いろいろありました。でもこうやって最終日をみんなで迎えると、全部がいい思い出になってます」とコメント、会場からは大きな拍手が送られた。
出演者、スタッフがステージを去っても歓声は鳴りやまず、再びユーミン、武部が登場。万感の思いを込めて「卒業写真」(1975年アルバム『COBALT HOUR』収録)を歌い、ツアーは幕を閉じた。
ツアーが終わってもユーミンは止まらない。11月27日から12月20日まで東京・帝国劇場で舞台『ユーミン×帝劇 vol.3「朝陽の中で微笑んで」』を上演。ここでもまた、深みを増した表現を見せてくれるだろう。「私はユーミンの奴隷」という強い意思とともに彼女は、さらに先へと進むはず。日本のポップシーンを牽引してきたユーミン。その物語はまだまだ続いていくようだ。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。