森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.67
山下達郎、福山雅治、スキマスイッチ……J-POPの魅力を再認識できる新作
あらゆるジャンルの音楽性を飲み込みながら、常に時代の空気を映し出してきたJ-POP。世界の潮流とは違うところで独自の進化を遂げてきたJ-POPは、ときにガラパゴス化と揶揄されながらも、いまも素晴らしい楽曲を生み出し続けている。そこで今回は、普遍的なパワーを持ったバラードから90年代リバイバルを体感できるコンピまで、J-POPの魅力を再認識できる新作を紹介したい。
山下達郎の通算50作目となるシングル『REBORN』は、映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』主題歌として制作された。映画のなかで“時代を越えて歌い継がれている”と設定されている楽曲(劇中では門脇麦が演じる天才シンガー“セリ”が歌唱)を具現化、劇中歌として成立させたうえで、山下達郎自身がエンドロールで歌う。それは彼自身が「(これまで担当してきた映画の主題歌の中でも)一・二を争う難しい注文でした」とコメントするほどのハードルだったわけだが、美しく壮大なサウンドデザイン、人生の機微を掬い取るようなメロディ、“人はどこから来てどこへ向かうのか”という根源的なテーマと向き合った歌詞が共存するこの曲は、既に普遍的な力をまとっている。カップリングには門脇麦の歌唱による「REBORN -Vocals by セリ(門脇麦)-」を収録。この先ずっと歌い継がれ、多くシンガーによってカバーされるであろう、J-POPの新たな名曲が誕生したと言い切りたい。
前作『I am a HERO』(2015年8月)以来、約2年ぶりとなる福山雅治の32thシングル『聖域』の表題曲は、ガットギター、バンジョーの生々しい響きを前面に押し出したサウンドメイク、そして、自らの心のなかにある誰にも触れてほしくない部分(=聖域)をモチーフにした歌がひとつになったナンバー。この楽曲は福山自身の音楽的なイメージをさらに広げるとともに、J-POPというジャンルが持つ懐の深さを改めて示していると思う。カップリングにはカントリーの要素を取り入れた「jazzとHepburnと君と」、ジョニー・デップとの共演で話題となったCMソング「Humbucker vs .Single-Coil」のほか、【初回限定盤 Music Clip DVD 弾き語り音源付】には「聖域」ライナーノーツトークを収録(「聖域」でギターバンジョーを使用した意図、ドラマ『黒革の手帳』(テレビ朝日系)のスタッフサイドから“ロック的なエッセンスで”とオファーされたことなどを解説)。CD商品としての価値を高めるための施策も興味深い。
Mr.Children、槇原敬之、CHAGE and ASKAなどの王道J-POPをルーツに持つと同時に、AOR、ソフトロックなどのディープなリスナーでもあるスキマスイッチ・大橋卓弥と常田真太郎。通算25作目となる今回のニューシングル『ミスターカイト / リチェルカ』にも、ポップとマニアを共存させた彼らの特徴がはっきりと表れている。「ミスターカイト」はフォーク的なメロディから現代的なエレクトロ・ロックへと一気に以降するアッパーチューン。“向かい風を受けて空高く上がる”凧をテーマにした歌詞も心に残る。そして「リチェルカ」は「アーセンの憂鬱」「ゴールデンタイムラバー」の系譜にある、ファンクロック系のナンバー。緻密に構築されたアレンジ、凄腕ミュージシャンたちによる高揚感溢れるグルーヴ、激しく起伏に富んだメロディラインが共存するこの曲は、既にライブでも大きな反響を集めている。デビュー以来、J-POPの可能性を広げ続けている彼らはいま、何度目かの充実期に突入しつつあるようだ。