小熊俊哉の新譜キュレーション 第3回
QOTSA、The Nationalらの”新たな一手”とは……ロックの転換期を告げる必聴アルバム5選
The War On Drugs『A Deeper Understanding』
こちらもUSインディー屈指の人気を誇るThe War On Drugs。メジャー移籍後の初作となる『A Deeper Understanding』では、ボブ・ディラン似の歌に、ブルース・スプリングスティーン譲りの作曲術、ハイウェイを駆けるようなモータリック・ビートとアメリカーナの黄昏、ドリーミーでサイケデリックな音響処理という、2014年の前作『Lost in the Dream』で確立した勝利の方程式をさらに前進させています。プロダクションの向上は一目瞭然で、ジャケットで見せる佇まいそのままに、鍵盤楽器/ビンテージシンセの多彩なレイヤーを張り巡らせた音像は、ソフトロックの霧を思わすタッチから、ウルリッヒ・シュナウスによるエレクトロ・シューゲイザーにまで準えたくなるもの。
ほかにも、オープナーの「Up All Night」では生ドラムとリンドラムを並走させ、デヴィッド・ボウイ作品におけるロバート・フリップのようなギターソロを盛り込むなど、あの手この手で80年代アリーナロックをモダンに昇華。もちろん、スケールの大きいギターソロなど、絵に描いたようにアメリカンな演奏も持ち味で、11分超の長尺ナンバー「Thinking Of A Place」は彼らの真骨頂でしょう。車でかけてもヘッドフォンで聴いても、果てしなきロードトリップが堪能できるはず。
Everything Everything『A Fever Dream』
最後にUKからひとつ。Alt-J、Foals、Wild Beastsといった面々と並んで、かの国におけるアートロックを牽引してきたEverything Everything。2010年のデビュー作『Man Alive』で一躍ブレイクを果たしたときは、日本でも大いに歓迎されました。その頃からRadioheadとビヨンセへの愛を同列に語るなど、今日のシーンを予見したフリーダムな音楽性が魅力でしたが、その後の2作で世界観に磨きをかけ、今回の『A Fever Dream』で独走態勢に入ったように映ります。
その新作では、変幻自在のバンドサウンドや、複雑に練られたコーラスハーモニーというトレードマークはそのままに、よりヘヴィで内省的に深化。ブレクジットに揺れるUKの不穏なムードを音に込め、獰猛なアンサンブルを奏でています。こう書くと息苦しいアルバムみたいですが、ビートミュージックを血肉化した「Can’t Do」、近年のMuseよりMuse的な「Desire」、ミニマルなエレクトリックゴスペルと呼びたいタイトル曲など、豊富なリズムパターンと斬新なアレンジもあって風通しの良さは抜群。パンキッシュな初期がXTC的だったとしたら、エレクトリックな重厚感を纏った今の彼らは、成熟した近年のDepeche Modeに近いでしょうか。
■小熊俊哉
1986年新潟県生まれ。ライター、編集者。洋楽誌『クロスビート』編集部、音楽サイ『Mikiki』を経て、現在はフリーで活動中。編書に『Jazz The New Chapter』『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』『ポストロック・ディスク・ガイド』など。Twitter:@kitikuma3。