姫乃たま、写真家・宇壽山貴久子に聞く“心得”「格好良く撮るためには、さりげなさが大事」

姫乃たま、写真家に“心得”を聞く

 CDジャケットにアーティスト写真、ライブ撮影など、音楽の世界にはミュージシャンたちのビジュアルイメージを支えながら、記録を残し続ける撮影の仕事があります。「音楽のプロフェッショナルに聞く」第6回目は、写真家の宇壽山貴久子さんをお迎えして、写真を通じて音楽に携わる方法を聞いていきます。

「写真家っていうのはその場の問題を解決出来る人」 

ーー私も音楽ユニット・僕とジョルジュのジャケット撮影でお世話になっていますが、澤部渡さん(スカート)のアーティスト写真を撮影したり、ライブイベントも主催したり、宇壽山さんは音楽関係の仕事によく携わっていますよね。

宇壽山貴久子(以下、宇壽山):音楽は数年前に日本に帰ってきてから好きになりました。ニューヨークで16年ほど暮らしていたので、日本語で歌われると、「わー、日本語だー、嬉しい」っていう気持ちになるんですよ。いまは仕事のような趣味のような、仕事のような感じでやっています。

ーー趣味のようなとは言え、ご自身でイベントを開催されてますよね。昨年主催された『MiMi Fes!』(=耳フェス)もチケットが完売して大盛況でした。出演者の方も豪華で。

宇壽山:大友良英さん、Taiko Super Kicks、Alfred Beach Sandal、向井秀徳アコースティックエレクトリックに出演してもらって。

ーーこれはもう趣味の範疇を越えているような……ブッキングも宇壽山さんがされたと聞いて驚いたのですが、私も一緒に撮影させていただいて、宇壽山さんは人との距離の取り方が魅力的だなと思いました。撮影の時も、ミュージシャンの方との距離感で気を付けていることはありますか?

宇壽山:あはは、気を付けてるかなあ。大友さんを撮影する時は、大友さんだからこそフランクに接します。そういえばこの間はロンドンから来日してきたThe xxっていうバンドを撮影したんですけど、今回はミュージックビデオのイメージに合わせて撮影するようリクエストがあったので、普段あまり予習しないんですけど、予習してから行きました。しかし実際に撮るときはそれに忠実というわけでもありませんでしたが。

ーーえっ、予習しないんですか。

宇壽山:先入観を持たないようにしてるんです。芸能ニュースは見ないようにしてるし、テレビもないので、撮影する時はプロフィールだけ見て年齢とかだけ把握して、動画は見ないようにしてます。初めて会った時に動いているところを見たほうが、向こうのイメージに囚われずに撮影できるので。

ーーはー、たしかにそうですよね。これまで印象に残っている撮影はなんですか?

宇壽山:川本真琴withゴロニャンずのジャケット撮影は楽しかったですね。みんなが普通に野球をしてるように撮影しました。遅刻してきたメンバーがいたんですけど、なんか登場の仕方が風来坊みたいに演出がかってる感じだったのが面白くて、ドキュメンタリーみたいな感じでそこも撮りました。

ーーCDジャケットの撮影って、ほかの撮影と勝手が違いますか?

宇壽山:ジャケットって正方形じゃないですか。一眼レフの写真って縦か横に長いものなので、それを念頭に置いて撮影しないといけない時点でほかのものとは違いますね。

ーーしかもミュージシャンの方ってモデルではないので、長く撮影すると疲れちゃいそうですよね。

宇壽山:格好良く撮るためには、さりげなさが大事だと思うんですよ。さりげなく、風のように。

ーー風のように……?

宇壽山:風のようにさっと、さりげなく撮影するのがいいなと。そして風のように帰る! 撮影時間が押すの嫌なんですよ。時間って引っ張ってもいいことないから。ねばっていいものが撮れる人もいるんですけど、そこは性格によってなので、私の場合はあんまりないから、なるべく短く、その人がかわいいというよりは格好良く見えるように撮ります。

ーー私が撮影してもらった時も面識はなかったですが、宇壽山さんからも事前に撮影案をいただけたので、当日もイメージ通りに進んで助かりました。

宇壽山:あの時は、私からだけでなくて、レーベルからもいろいろな要素を出してもらったと思います。でも圧倒的に現場で判断する仕事のほうが多いですね。

ーー宇壽山さんって半分くらいは事前にイメージを固めて、当日に撮影しながらあとの半分を決めていく印象でした。

宇壽山:そこまで時間が取れないことも多いんです。撮影の直前にロケハンして、できることをやるのが一番多いですね。だから臨機応変に立ち回らなければいけないし、これは写真の学校で習った唯一のことだと思うんですけど、カメラマンっていうのはその場の問題を解決出来る人でなければいけないんです。カメラマンがどうしようって思ってたらいけないし、問題は解決していかないとその場が進まないから。現場で一番責任があるのはカメラマンっていう教えは、わかると思いました。

ーー撮影って何かとトラブルが起こりがちですもんね。

宇壽山:写真家はそういう時に決められる人のほうがいいですね。

ーー臨機応変と言えば、ライブハウスで撮影する時にも、気を付けていることはありますか?

宇壽山:とにかく邪魔にならないように(笑)。しかしどうがんばっても邪魔ですが。ライブって誰が撮っても同じようになりがちだから、難しい撮影のひとつで、個性が出しづらいんですよね。どうやって、自分が撮影したものだって思わせるかが難しい。

ーーたしかにライティングするわけにもいかないですし、どうやって差をつければいいんでしょう。

宇壽山:みなさんカメラを三台くらい持って、工夫されてますよね。すごい望遠レンズを付けたカメラと、そうじゃないカメラとか、コンパクトカメラを持ってくる人もいるし。

ーーあれってなんで、たくさんカメラを持っているのか不思議でした!

宇壽山:カメラを変えれば写真は絶対に変わるんですよ。逆にカメラが変わっても同じ写真を撮る人はそういうコンセプトを持っている人。一眼レフとiPhoneで同じ写真が撮れる人はすごいけど、普通は写真の感じが変わるので、いろんなカメラを試したり、デジタルからフィルムに変えてみたりするのは大事ですね。自分にはどれが一番しっくりきて、その仕事に適しているのはどれなのかを見つけるのは基本的なことです。

ーー撮影以前に、写真家としてどうしたら音楽の仕事に携われるようになるんですか?

宇壽山:私は写真を撮影した人に、ほかの人を紹介してもらって、さらに紹介してもらってっていう感じです。営業もしたけど、営業先の数はすごく多いわけではなかったです。

ーー全く知らない出版社に飛び込みで営業とかはされなかったんですね。

宇壽山:それもありますよ。でもそれは急に来られても向こうも仕事を用意できないので、数年後に、そういえばって思い出してもらって仕事が来ることが多くて、形になるまで時間がかかりました。

ーーその縁が繋がって、ゆらゆら帝国の撮影もしていたのがすごい……。

宇壽山:解散する直前くらいでしたね。

ーー緊張しそうです。

宇壽山:緊張しましたね。だって髪で隠れて顔が見えないんだもの。

ーーえっ、そこですか!

宇壽山:顔見せてーって。でも音楽の仕事って楽しいし、やり甲斐がありますね。趣味と仕事が一致したからかな。

ーーそこが今回最も大事な部分です!

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