『リトルウィッチアカデミア』劇伴の仕掛けは“キャラクターの個性”にあり? 作曲・選曲の手腕を読む

シンセサイザーとオーケストラの共存

『リトルウィッチアカデミア』サウンドトラック集

 2クールにわたって放送されている本作は、1クール目から継続して使用されている劇伴もあるが、2クール目から追加された楽曲も数曲ある。その中の数曲は、2クール目から新たに登場した人物に関連付けることで、効果的に取り入れている。

 例えば、途中からルーナノヴァの教員として赴任したクロワ・メリディエスは、タブレットや魔導ユニットなどといった「先進的な機材」を「保守的な魔法学校」の授業に導入するが、このクロワが登場するシーンで比較的頻繁に流れるのが、シンセサイザーを中心とした劇伴だ。モノフォニックシンセサイザーの単音をパズル的に組み合わせ、倍音を少なくすることで冷徹さを感じさせるサウンドや、パッドで異空間を演出するサウンドが、その一例として挙げられる。それらの音は、ストーリー上、近未来の要素を魔法学校に持ち込み、なおかつ生徒たちを危険な目にあわせる悪役であるクロワのキャラクター像を、さらに明確なものとしている。

 劇伴の基本的な考え方として、「どのような様式・ジャンルの音楽を用いるかが、劇伴のみならず映像作品全体の性格や方向性を決定付けることになる」ため、オーケストラのサウンドで構成された劇伴が多数ある中にシンセサイザー主体の劇伴を入れ込むことは多少注意が必要だ。しかし、本作は登場人物のキャラクターとサウンドを関連付けることで違和感なく共存できている。また、オーケストラサウンドにシンセサイザーでリズムを付与したバトルシーンの劇伴なども数曲確認できるため、そういった部分でも一つの映像作品の中で、様々なジャンルをハイブリッドさせることに成功しているのだ。

民族楽器を劇伴にどう取り入れるか

 さらに、民族楽器を使用した怪しげな劇伴も何曲か存在する。例えば、魔道具でのシーン(第4話)、生徒達が魔法法律学の授業でオカルト先生ルーキッチから拷問などの話を聞かされるシーン(第7話)、主人公がサミー人を求めて雪山を訪れるシーン(第16話)など、そのほとんどが奇妙なシーンや各種民族と関連のあるシーンである。ユートピア的なことが題材となっている映像作品としてもそのサウンドは非常によくマッチしているが、民族楽器を劇伴に取り入れることは実は高度な手法でもある。なぜなら、民族楽器は非常に主張が強いため、安易に取り入れると映像の中で予想外にそのサウンドが「意味を持ってしまう」可能性があるからだ。これは日本や中国の歴史を題材にした映像作品でも和楽器を大胆に使った劇伴は意外と限られていることからも想像できる。逆に考えると、音色が主張するという点を利用して、サウンドにスパイスを与える役割も担うことができるのだ。

 一つの映像作品の中にはたくさんの劇伴が使用されているため、必ずしもそれら全てが関連付いているわけではないが、上記3つの考察から言えることの一つは、西洋音楽の楽器、シンセサイザー、さらには各種民族楽器などの異種の素材を「人物に関連づけるということも含めた、その劇伴の使用箇所の工夫」により違和感なく同居させることができているということだ。それには、前述した様々な作曲面での工夫はもちろん、それを選曲したアニメの制作者サイドによる貢献も大きい。

 7月にはTVアニメ『リトルウィッチアカデミア』、アニメミライ2013『リトルウィッチアカデミア』、『リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード』の劇伴が収録される4枚組の『リトルウィッチアカデミア』サウンドトラック集が発売されることも決まっている。クライマックスはもちろん、番組終了後も本作やその劇伴に注目が集まることは間違いない。

■タカノユウヤ
作曲家、編曲家。東京音楽大学卒業。
「映像音楽」「広告音楽」の作曲におけるプロフェッショナル。
これまでに様々な作品に携わるほか、各種メディアでも特集が組まれる。
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