石井恵梨子の「ライブを見る、読む、考える」 第5回:忘れらんねえよ

ロックバンドは心意気ひとつで“状況”を変える――忘れらんねえよZepp DiverCityワンマンレポート

 この連載では、基本的に若いバンドを取り上げている。まだ広くは知られていないが、ライブハウスで新たな動きを起こし、現在のシーンに切り込もうとするカウンターをいち早く見つけていきたいのだ。

 ただ、そうなるとこぼれ落ちるものがある。ロックシーンの頂点をひたむきに目指し、周囲の理解や協力があっても、なかなか芽が出ないバンドたち。彼らが途中から大きく脱皮し、今までにない求心力を手にする瞬間。誰もが怒髪天のように武道館に立てるとは言わないが、心意気ひとつで状況を変えることは可能である。忘れらんねえよが、今、そのタイミングにいる。

 結成から約1年、ロッキング・オン社の新人コンテスト『RO69JACK 09/10』に入賞、VAPからメジャーデビューした忘れらんねえよは、ほかから見ればずいぶんと恵まれたスタートを切ったバンドである。王道ロックンロールと青春パンクをブレンドしたような音楽性も、いつの時代にも一定数いるタイプであり、決してわかりにくくはなかったと思う。シングルはタイアップに恵まれ、地道ながらテレビ出演も多数。しかしすぐには売れなかった。

 バンドをスタートさせた頃、すでに三十路手前だった柴田隆浩(Vo./Gt.)には、「他とは違う戦略が必要」との気負いがありすぎたのだと思う。基本的に女子が苦手という自身の性格を粉飾して童貞を公言し、「慶応ボーイになりたい」などとコンプレックス剥き出しの曲を連発していく。当時の私は鼻白んだ。かっこ悪さも突き詰めれば魅力に転じるかもしれないが、世の中に峯田和伸はひとりで十分だ。柴田が本当に目指しているロックバンド/ロックスター像と、自分で打ち出したイメージにズレがあることは、ライブでもなんとなく見て取れた。いいかげん底辺の童貞野郎ぶらなくても、ちゃんと素敵な曲が生まれているのに。そう思ったのが昨年の1月である。

 そこから約一年半。10月9日、Zepp DiverCityで忘れらんねえよを見た。

 

 大バコでのワンマンが発表されたのは3月のことだが、チケットは前日になってようやくソールドアウト。このスピード感はバンドの通ってきた道によく似ている。スタートダッシュで敏感なリスナーを一気に攫うことはできない。だがフロアを見渡せば、楽しいことなら何でも大好きな10代女子がいて、柴田の歌に自分を重ね合わせている同世代男子がたくさんいて、ちょっとくたびれた感じのオッサン、やけに元気なオバサンも結構いる。アニメ主題歌や映画の劇中歌、朝のワイドショーや深夜バラエティまで、多くの場所で撒いてきた種がちゃんと芽になっているのだ。メジャーでやる意味はこういうところにあるのだとしみじみ思う。

 暗転。華やかなスポットのあたるステージではなく、後ろのPA卓上に柴田が仁王立ちになっていた。今からダイブするから、このまま俺をステージまで運んでくれ、というわけだ。ソールドアウトの喜びを爆発させているのだろうが、いったい何分前からここに身を潜めていたのかを想像すると吹き出してしまう。やっぱり、クールなことよりも、ちょっと隙のあるバカのほうが似合う人なのだ。ただ、そこには必要以上のへりくだり、自らを底辺に貶めていく卑屈さが全然なかった。驚いた。

柴田隆浩

 この道の先にはデカいステージがあると歌いあげる「バンドワゴン」からのスタート。ずっと描いていた景色を実際に見つめながら、柴田隆浩も梅津拓也(Ba.)も心底楽しそうに笑っていた。以前なら興奮しすぎて逆ギレみたいな事態にもなり得たと思うが、二人は素直にこの場を楽しんでいる。おそらくは、サポートのマシータ(Dr./元BEAT CRUSADERS)とロマンチック☆安田(Key.&Gt./爆弾ジョニー)の存在が大きいのだろう。

梅津拓也

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