新代田FEVER『POPS Parade Festival 2016』レポート

来るべき地殻変動の予兆はあったか? 栗原裕一郎の『POPS Parade Festival 2016』レポート

主流でない場所で鳴らされてきたポップス

 ここらで白状すると、何度も書いているように僕はアニメに疎いのだが、ゲームにはそれ以上に疎い。もともとはゲームジャンキー気味だったのだけれど、忘れもしない『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』(92年)を遊んでいたときのこと。「なんでおれは来る日も来る日も村人に話を聞いたりスライムを倒したりしてるんだろう?」という疑問がとかとんとんと降りてきて、ふいに白けた。そしてそれ以降ゲームをプレイするという行為がほとんど不能になってしまったのだった。『beatmania』はかろうじて少しやったものの『pop'n music』はまったく触ったことがなかった(この原稿を書くために1ゲームだけ試した)。

 だから、risetteの「tangerine」や杉本の「Homesick pt.2&3」にお客さんたちがどうしてああもビビッと反応しているのか実はわからなかった。これらの曲は、ゲームという媒体でポップスを享受してきた新たなリスナーたちにとってのアンセムなのだ。常盤ゆうはその世界では揺るぎない歌姫である。沖井もゲーム経由でTWEEDEESを見に来る若い人が多いと話しているが、その事実は普通にJポップを聴き音楽雑誌を眺めているだけでは見えてこない。

「TWEEDEESのライブには、高校生のお客さんも来てくれます。で、彼らが何で僕の存在を知ったかというと、ゲームミュージックだったりするんです。北川くんの場合はアニメだったかな(参考:http://realsound.jp/2015/10/post-4938_2.html

 当サイトの僕の担当編集者は現在26歳でCymbalsとTWEEDEESのコアな支持者なのだが、沖井を知ったのはやはりゲーム音楽からだったそうだ。

 アニソンについてはいうまでもないだろう。花澤香菜という強力なアイコンに2000年代以降の状況の変化と才能の異動が集約されつつある印象で、その事態を以前、松田聖子を彷彿させると書いたが、奇しくも杉本が先の座談会で、彼らが作家としてアニメやゲームに携わっていることについて「多分、もう少し前の世代だったら、松本隆さんがなんで聖子ちゃんの歌詞を書いているんだろう、という疑問と同じだと思うんですよ」と話していた。

 (ポスト)渋谷系がオタク文化に流入・融合したという観点から「アキシブ系」という呼称が一時使われた。事象を表面的に括って示すタグとしては悪くなかったと思うものの(どうにもダサいが)、産業構造の変動がそのような状況を導いたのだという認識が抜け落ちる。ブームの廃れた渋谷系の人たちがアキバ文化へ流れてきたという含みが「アキシブ系」にはあったと思うが、廃れたのは渋谷系というより音楽産業そのものであって、「アキシブ系」のサウンドイメージは結果的に付いてきたものだ。名付けるなら「ポストJポップ」とか「オルタナティブJポップ」といったほうがまだしも事態に即していると思うのだが、まあ、コピーの上手い人がそのうちいいネーミングを考えてくれるだろう。

 北川は「アニメとか関係なく、いい音楽が多くの人に届くまで続けることが自分の役割だと思ってますね」と話していた(前出の『MARQUEE』)。沖井は「諦めなければいいだけの話なんですよ」と話していた(『メロディがひらめくとき』)。

 いわゆるJポップと、アニソンやゲーム音楽のリスナーはいまだ分断しているが、原因はもっぱら記録媒体と流通、音楽ジャーナリズムの問題に還元される。CDというフィジカルな媒体が退場を控え、活字ジャーナリズムの影響力が衰微する現状を鑑みれば、分断は遠からず消滅していくと見るのが妥当だろう。

 折しもこのイベントの前日に、花澤香菜が地上波の音楽番組に初出演した(NHK『NAOMIの部屋』)。北川のギターと沖井のベースをバックに新曲「あたらしいうた」を披露したのだ。6月1日に発売される花澤のこの新曲と、7月20日に発売予定だというTWEEDEESの新アルバムで状況が大きく動くのではないかと予想している。この『POPS Parade Festival 2016』へ足を運んだのは、来たるべき地殻変動を予兆したメモリアル的なイベントになるのではないかという予感からだったのだが、その見立てが当たっていたか否かは、さほど長くない時間の経過が判定してくれるだろう。

(写真提供=『POPS Parade Festival 2016』/『ポプシクリップ。』)

■栗原裕一郎
評論家。文芸、音楽、芸能、経済学あたりで文筆活動を行う。『〈盗作〉の文学史』で日本推理作家協会賞受賞。近著に『石原慎太郎を読んでみた』(豊崎由美氏との共著)。Twitter

■セットリスト
○北川勝利(ROUND TABLE)
1.Radio Time A Go-Go!!(instrumental)
2.Goin' To The Radio Show
3.World's End
4.Cool Club Rule
5.Feelin' Groovy
6.Beautiful
7.愛の行方
8.Under The Moonlight
9.Dancin' All Night

○risette
1.タウンホール・ミステリー・ツアー
2.シアン
3.tangerine
4.水玉のエチュード
5.PROBABLY LOVELY DEADLOCK
6.stop!

○杉本清隆(orangenoise shortcut)
1.Highway star chaser
2.Techno Highway
3.天気予報(新曲)
4.Landing on the moon
5.Homesick pt.2&3
6.It's A Shiny Day!

○TWEEDEES
1.速度と力(新曲)
2.STRIKERS(新曲)
3.PHILLIP(新曲)
4.バタード・ラム(新曲)
5.BABY, BABY(新曲)

○Swinging Popsicle
1.I love your smile
2.mobile phone
3.Small Blue Sailboat
4.遠い空
5.Afterglow
6.I just wanna kiss you
7.wander in their dreams
8.Joy of Living

■関連リンク
POPS Parade Festival 2016
ポプシクリップ。マガジン第7号

○北川勝利(ROUND TABLE)
オフィシャルサイト
北川勝利ツイッター

○risette
オフィシャルサイト
risetteツイッター

○杉本清隆(orangenoise shortcut)
オフィシャルブログ
杉本清隆ツイッター

○TWEEDEES
オフィシャルサイト
TWEEDEESツイッター

○Swinging Popsicle
オフィシャルサイト
20周年記念特設サイト
Swinging Popsicleツイッター

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