沖井礼二と黒田隆憲が語る“ポップスの暴力性”とは?「気持ちいいところは過剰にした方がいい」

沖井礼二と黒田隆憲が語る“ポップスの暴力性”

「スタイルを完成させるというのは、オリジナルなものを作るという意味で大事なこと」(黒田)

――沖井さんに加え、先ほどお名前の挙がったミトさんや、北川勝利さん(ROUND TABLE)などは、アーティスト活動のほかに、音楽作家・プロデューサーとしても近年多くの功績を残しています。ご自身ではこの状況をどう受け止めているのでしょうか?

沖井:たぶん、僕や北川くん、それにミトくんの音楽を聴いて育った人たちが、ある程度の立場を持つようになったからなのかもしれない(笑)。ディレクターやクリエイター、原作者など、色々とポジションはあると思いますが。ただ、ここ最近そういった起用が目立つということは、我々はそこまでは、自分たちより上の世代に評価されていなかったのかなあ、なんて思ったりします。

――若い人からの支持を得ている、という体験を直にすることもありますか。

沖井:TWEEDEESのライブには、高校生のお客さんも来てくれます。で、彼らが何で僕の存在を知ったかというと、ゲームミュージックだったりするんです。北川くんの場合はアニメだったかな。若い方の中には、フリッパーズ・ギターやピチカート・ファイヴではなく、CymbalsやROUND TABLEを渋谷系だと思っている人もいるみたいで。そこは自分でもよくわからない感覚です。

黒田:渋谷系って音楽だけではなく、ファッションなどのカルチャーとして様々な人間に影響を与えたと思うんです。そういう大きな流れのシーンがあったからこそ、今のクリエイターたちがこぞって渋谷系に思いを馳せていて、当時のことを思って音楽を作っているのかもしれませんね。

沖井:信藤三雄さんのアートワークとかね。ただ、あの頃ってオシャレになったというよりは、みんなソファで恰好つけているだけで、似たり寄ったりだった80年代のレコードジャケットに対する反発として、50~60年代のデザインを90年代的に再構築、再構成したものだと思うんですよね。そのタームで時代がめぐって、90年代のものが20年後の2010年代に再評価されているという考え方もできる。ただ、20世紀と違って、今は流行というものがほぼない時代になってしまった。皆がそれぞれ、好きなものを好きなように掘れるようになったからこそ、これからのことが20世紀の頃より少し読みにくいですよね。流行に左右されず、自分の好きなものを掘れるという意味では、健全な世代なのかもしれませんが。

黒田:再構築といえば、先日、真部脩一さん(Vampillia、ex.相対性理論)にインタビューした際、彼は“相対性理論っぽいメロディー”について、「誰でも再現できるひな形のようなものを発明した」と言っていて(参考:あの人の音楽が生まれる部屋 Vol.25 真部脩一)。オリエンタルなメロディを少ない音階で組み合わせればそれっぽくなると。沖井さんの音楽も、メロディーの節回しや駆け上がり方、駆け下り方に一貫性を感じるのですが、ひな形として意識したりすることはありますか?

沖井:Cymbalsをやる前のアマチュアバンド時代に、ある程度の手ごたえを感じたものがあって。「これを発展させて、自分のスタイルにしよう」と意識していました。そのベースをCymbalsでさらに完成形へ近づけて、今はそこと違うものを形として作ろうと無意識のうちに思っているものかも、といま自覚しました。

黒田:スタイルを完成させるというのは、オリジナルなものを作るという意味で大事なことなんですよね。

沖井:ミトくんにも「沖井くんは伝家の宝刀があるから強いよね」って言われて、「だってそのつもりで作ってるもん」って答えたことがあります。“沖井っぽい曲”を作らせたら、僕が一番上手い、みたいな(笑)。口の悪い人は「沖井礼二の曲はみんな同じだ」って言いますけど、僕としては「同じで何が悪い」と思いますし、馴染みのラーメン屋でいつものラーメンを食べるみたいに。安定したクオリティーを提供したいと考えているんです。

――あえてその“沖井っぽい曲”を言語化すると、どういう構造になっているのでしょう。

沖井:楽理・楽典的なことはあまり考えていないのですが、例えばCymbalsの「Do You Believe In Magic?」は、「こういう跳躍をすればこういう開放感と泣きが出るよね」という、自分なりに筆の運び方があって。まさにあの曲はサビを一番シンプルにしたところがあるから、自分でもズルいなあと思いながら作っていました(笑)。

黒田:たぶん、駆け上がる時のBメロの順番とか、シンコペーションの仕方、メジャー7thの使い方なんだと思います。筆の運び方ってすごくわかりやすいですね。

沖井:最初は意識して作ったわけではなくて、高校生の時に自分が作った曲を友人に聴かせたら「お前の曲はメロの譜割りが変じゃのう」と言われて気づいたのですが、僕の作る曲って、人の8ビートよりすこしラテン寄りの繰り方になっているんですよ。だからCymbalsのときは、そこをあえて強調して、わざわざシンバルを入れるようにしていました。

 あと、実際のメロディーに対する動き云々ではなく、「せっかくポップスなのだから、気持ちいいところは過剰にした方がいいだろう」と意識はしていました。テンポの速い曲に関しても、自分が演奏していて気持ちいいところよりも少し速めに設定すると、演奏している側は必死になるし、それが楽曲の切迫感を生み出してくれる。実は、やっている本人は気持ちよくないんです(笑)。僕の好きなポップスには、そういうポップスゆえの暴力性みたいなものがあって、フィル・スペクターやザ・フーがその先に存在している。

――沖井さんが高校生のときに好んで聴いていたような音楽ですね。

沖井:その頃はテンポが速いだけでカッコいいと感じていましたから。やっぱり高校生の時の自分に、17歳の沖井礼二に聴かせて「カッコいい」と思われたいじゃないですか。

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