村尾泰郎の新譜キュレーション 第3回

ビートルズ『1+』と共に聴きたい、ブリティッシュ・ポップの秀作5枚

 ゾンビーズと同じく、ファンには嬉しい復活を果たしたのがスクイーズ。80年代にはXTCなどと並び、ブリティッシュ・ポップの伝統を受け継ぐバンドとして愛された彼らの17年振りのオリジナル・アルバムが『Credle To The Grave』だ。現在オリジナル・メンバーはグレン・ティルブルックとクリス・ディフォードの二人で、新メンバーのうち2人はティルブルックのソロ活動を支えるバンドのメンバー。ティルブルックは一人で様々な楽器を演奏していてティルブルックのソロにクリスが合流した形だが、80年代のレノン&マッカトニーと謳われたグレンとクリスのチームワークは健在だ。ソウル、カントリー、クラシックなど様々な要素で味付けしながら、スクイーズらしい人懐っこいポップ・センスが曲の芯にしっかりと息づいている。ちなみに本作は同名のTVコメディ番組のサントラとして制作されたらしく、日本でも放映してくれないかな、と独り言。

 そのスクイーズとはひとまわり下の世代で、90年代にイギリスでは国民的バンドとして人気を誇っていたのがビューティフル・サウスだ。彼らは2007年に惜しまれながら解散したが、現在バンドの中心人物だったポール・ヒートンとヴォーカルのジャクリーン・アボットは男女デュオとして活動中。『Wisdom, Laughter And Lines』は彼らにとって2枚目のアルバムで、二人の息が合ったヴォーカルの掛け合いはビューティフル・サウスそのままだ。そして、なんといっても素晴らしいのがヒートンのソングライティング。60年代ポップスのフレイヴァーを漂わせながら、美しいメロディーと巧みなアレンジでドラマティックに物語を盛り上げていく。思えば今年、ベル・アンド・セバスチャンのスチュワート・マードックが初監督したミュージカル映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』が公開されたが、ヒートンの撮るミュージカル映画もぜひ観てみたい。

 最後は隠れた名盤を。80年代UKギター・ポップ・シーンで異彩を放つジャズ・ブッチャーのギタリスト、マックス・アイダーが87年に発表したソロ・アルバム『キス上手』がリイシューされた。ジャズ・ブッチャーは、ジャズ、ボサノヴァ、ロカビリーなど、なんでもありな駄菓子屋的サウンドでマニアックな人気があったが、『キス上手』ではアイダーの人の良さが全開。メロディーもギター・プレイも親しみやすく、肩の力が抜けていて心地良い。そんななか、ノスタルジックなジャズ・ナンバーが本作の隠し味。「The Best Kisser In The World」なんて原題からもアイダーのロマンティストぶりが伝わってくるが、アルバムを包み込む甘酸っぱさこそ、本作がギター・ポップ・ファンに長い間愛されてきた理由だろう。さらに今回のリイシューでは、未発表曲「Fireflies」のデモ音源をボーナス・トラックとして収録。この自家製ドゥワップ・ナンバーがアルバムにドリーミーな余韻を与えていていて、ほんと和みます。

■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。

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