兵庫慎司が自腹で行ってきた

くるり主催『京都音博』全ステージレポート 9回目を迎えた同フェスの「得難さ」とは?

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 岸田&佐藤+ドラム、キーボード、ギターに、昨年の京都音博に出演したブエノスアイレスのミュージシャン、トミ・レブレロがバンドネオンで加わった6人編成。ドラムのMabanuaは3曲目から6曲目までの参加、それ以外はドラムレス編成での演奏だった。

1 Time
2 ブレーメン
3 パン屋さん
4 新曲
5 新曲
6 ふたつの世界
7 真昼の人魚
8 キャメル
9 京都の大学生
10 Baby I Love You
11 ペンギンさん
12 宿はなし

 という、まさにこの日のためだけの、ここでしかやらないであろうセットリスト(そういえば逆に、今年の春から夏にかけてのフェス出演時は、みんな喜ぶような有名曲を並べたメニューでのライブが多かった)。最初に驚いたのは3曲目に「カバー曲をやります」とプレイしたサンフジンズの「パン屋さん」。サンフジンズでは3人という最少人数で演奏しているこの曲を、今のくるり+トミ・レブレロの6人でやるとこうなるのか!という新鮮さに満ちたプレイだった。「ツイッターでリクエストを募ったんやけど、(意見が)いろいろで(笑)。でも、この曲、多かったから」と歌われた「真昼の人魚」もすばらしかった。そして岸田、「さっき裏でスタッフと言うてたんやけど、あんたら最高やわ。世界一のお客さんです。ありがとう」とお礼を言ったり、ラストの「宿はなし」を歌う前に「いや、音博やっててよかったっす、くるりやっててよかったっす、ありがとう」とさらに感謝の言葉を口にしたりと、なんだかやたら感極まっていたようだった。

 

 ロック以外のジャンル、欧米以外のアーティストも招聘して、ステージがひとつだけのフェスを行う──という趣旨で2007年にこの『京都音博』が始まった時、いろんな声があった。もちろん肯定的な意見も多かったが、そのアーティストに興味がなければ他のステージに行くことのできる他のフェスと違い、「観る」か「観ない」しか選択肢のないフェスで、興味がないどころか全然知らない異国のアーティストと見せるのって、はたしてどうなのか、という声もあった。気持ちはわかるけど、それアーティスト側の趣味の押しつけになってしまうんじゃないか、くるり観たさにみんな来るけど、それまでじっとがまん、みたいなことになるんじゃないか、と。

 正直、1回目の時は、僕にもそういう気持ちはあった。が、開催3回目ぐらいで完全になくなった。そして今はむしろ──特にネットまわりに顕著だが──音楽にしろ映画にしろ本にしろ「いかにも自分が好きそうなもの」「興味持ちそうなもの」ばかりを勧められて、「興味なかったけどすごくよくてびっくりした」「全然知らなかったけど観て(聴いて)驚いた」という経験が、ちょっとまずいんじゃないかと思うくらい減っている今の自分にとって、音や映像ではなく生のライブでそれを体験させてくれる『京都音博』は、本当に得難い、重要な存在だと思っている。

 そしてその重要さは、回数を重ねるごとに増していると思う。人気者アーティストを揃えたフェスが動員で苦戦したりすることもある中、『京都音博』が満員のままで9回を数えているのは、その重要さを多くの参加者が肌で感じ取っているということなのではないかと思う。

 あ、異国のアーティストだけではありません。過去の石川さゆりにせよ、今回の八代亜紀にせよ、自分が生で観ることになるなんて思わなかったし。そして、どちらも、ショックなほどすばらしかったし。

 

(文=兵庫慎司/撮影=久保憲司)

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